アリストテレスは「歴史上もっとも偉大な博学者」である。今日まで30もの学術書が伝わっているが、そのテーマは気象学から心理学、政治学にまで及んでいる。キリスト教から異端視され一時は忘れられていたがイスラム世界経由で再発見され、17世紀まで西洋世界の高等教育を支配し、「人類が追究してきたほぼすべての学問領域に大きく貢献」している。
アリストテレスの師・プラトンは、形而上学や数学といった純粋な理論を追究する人たちの代表である。それゆえに「真理は常に常識に反する」ものであり、その最たるものである哲学者を統治者とすれば、意見の衝突に適切な裁定を下せると考えていた。一方アリストテレスは、常に広く人々の視点から調査をはじめ、問いかけを重ねながら考えを洗練させていった。政治における理性の役割を認めつつ、「私はどうしたらいいか?」に答える「市民の具体的で実用的な推論」と、「私は何を知り得るか?」に対応する「哲学者の抽象的で理論的な推論」とを区別した。
アリストテレスにとって倫理学や政治学は、「人々の選択の経験から導かれる実用の学問」であった。人々はときに判断を誤るものだが、なんらかの善を得るために選択を重ねている。共同体はそうした善のために生まれるのであり、理想の都市国家(ポリス)は善を求める人間の本性によるものだという。したがって、「公職に就く心構えと、意志と、能力があり、統治者にも被統治者にもなれる人間」が市民なのである。政治は、そうしたすべての市民が、あらゆる審議、討論、意思決定に積極的に参加することを指すのだ。
アリストテレスは、統治者の階級によって政治体制が決まると考えていた。富者のみが富者のために行う不正な政治は寡頭制であり、貧しい大衆の利益だけを優先する貧者のみによる政治は民主制となる。アリストテレスの理想は穏健な中間階層の統治を基本とした「国制(ポリティア)」であった。
現在の視点からその思想に触れるとき、アリストテレスは民主主義の見直しを迫る。優れた人物を選ぶための選挙は、「最も優れた者による支配」である貴族制にこそふさわしいとアリストテレスは指摘する。民主主義が貧者の政治なのだとすれば、たしかにアメリカの政治体制は寡頭政治と言える。
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