英米の大学生が学んでいる政治哲学史

三〇人の思索者の生涯と思想
未読
英米の大学生が学んでいる政治哲学史
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英米の大学生が学んでいる政治哲学史
ジャンル
出版社
出版日
2024年02月29日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

この世界に、政治と関わりのない人はいない。現代日本であれば参政権について憲法に書かれているし、実際に投票に行くというかたちで主権を行使している。一方で、政治が果たしてどのような理念に基づき何をしているのか、あるいは政治にまつわるさまざまな制度がなぜそうなっているのか、すぐに説明できる人はほとんどいないのではないだろうか。

自然科学が長い歴史の中で進歩してきたように、人類はよりよい政治を求めてさまざまな探求と実験を繰り返してきた。ところが、本当はそう簡単ではないのだが、自然科学が自然の振る舞いを一種の「正解」とすることができるようには、政治は「正解」を決められない。

そこで重要な役割を果たしてきたのが、思想と哲学だ。哲学というと、何か現実には役立たない抽象的な思索に重きを置くイメージがあるかもしれない。しかし、どのような政治が「正解」であり目指すべきものなのか、そこに社会情勢を鑑みた理論的な枠組みを与えてきたのは、いつも哲学だった。今生きる世界に現れているさまざまな政治も、やはり過去の哲学から生まれてきたのである。

本書は英米の大学生が学ぶ政治哲学史を通じて、政治と哲学が人類の歴史においてどのように絡み合ってきたのかを教えてくれる。そしてそれは、政治を通じて自らの生活を改善しようとする我々市民にこそ、必要な文脈なのだ。

ライター画像
池田明季哉

著者

グレアム・ガラード(Graeme Garrard)
1995年からイギリスのカーディフ大学で、2006年からはアメリカのハーバード大学サマースクールでも政治思想を教えている。彼は、カナダ、アメリカ、イギリス、フランスのさまざまな大学で25年間講義を行ってきた。Rousseau’s Counter-Enlightenment: A Republican Critique of the Philosophes (2003)、Counter-Enlightenments: From the Eighteenth Century to the Present (2006)、The Return of the State: And Why it is Essential for our Health. Wealth and Happiness (2022) などの著作がある。

ジェームズ・バーナード・マーフィー(James Bernard Murphy)
アメリカのニューハンプシャー州ハノーバーにあるダートマス大学で1990年から教壇に立ち、現在は政治学の教授を務めている。最新の著作はThe Third Sword: On The Political Role of Prophets (2023) である。

本書の要点

  • 要点
    1
    アリストテレスは、あらゆる意思決定に市民が直接参加する政治を理想とした。
  • 要点
    2
    トマス・アクィナスは、自然を神が創った書物であると捉えることで、信仰を深めることと科学の発展の矛盾を解決しようとした。
  • 要点
    3
    ホッブズは「リヴァイアサン」という概念を生み出し、生存へと向かう共通認識のために政府が存在していると考えた。
  • 要点
    4
    アーレントは古代ギリシャの政治をある種の理想と捉え、政治に参加することこそがもっとも人間的な営みであるとした。

要約

【必読ポイント!】 古代

生物学者 アリストテレス
Photos.com/gettyimages

アリストテレスは「歴史上もっとも偉大な博学者」である。今日まで30もの学術書が伝わっているが、そのテーマは気象学から心理学、政治学にまで及んでいる。キリスト教から異端視され一時は忘れられていたがイスラム世界経由で再発見され、17世紀まで西洋世界の高等教育を支配し、「人類が追究してきたほぼすべての学問領域に大きく貢献」している。

アリストテレスの師・プラトンは、形而上学や数学といった純粋な理論を追究する人たちの代表である。それゆえに「真理は常に常識に反する」ものであり、その最たるものである哲学者を統治者とすれば、意見の衝突に適切な裁定を下せると考えていた。一方アリストテレスは、常に広く人々の視点から調査をはじめ、問いかけを重ねながら考えを洗練させていった。政治における理性の役割を認めつつ、「私はどうしたらいいか?」に答える「市民の具体的で実用的な推論」と、「私は何を知り得るか?」に対応する「哲学者の抽象的で理論的な推論」とを区別した。

アリストテレスにとって倫理学や政治学は、「人々の選択の経験から導かれる実用の学問」であった。人々はときに判断を誤るものだが、なんらかの善を得るために選択を重ねている。共同体はそうした善のために生まれるのであり、理想の都市国家(ポリス)は善を求める人間の本性によるものだという。したがって、「公職に就く心構えと、意志と、能力があり、統治者にも被統治者にもなれる人間」が市民なのである。政治は、そうしたすべての市民が、あらゆる審議、討論、意思決定に積極的に参加することを指すのだ。

アリストテレスは、統治者の階級によって政治体制が決まると考えていた。富者のみが富者のために行う不正な政治は寡頭制であり、貧しい大衆の利益だけを優先する貧者のみによる政治は民主制となる。アリストテレスの理想は穏健な中間階層の統治を基本とした「国制(ポリティア)」であった。

現在の視点からその思想に触れるとき、アリストテレスは民主主義の見直しを迫る。優れた人物を選ぶための選挙は、「最も優れた者による支配」である貴族制にこそふさわしいとアリストテレスは指摘する。民主主義が貧者の政治なのだとすれば、たしかにアメリカの政治体制は寡頭政治と言える。

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要約公開日 2024.11.30
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