日本のような経済規模をもつ国家で近年、日本ほど人口が持続的に減少した例を見ない。人口減少の経済への影響は自明なものではなく、この局面にある日本経済の将来像の予測から見えることもあるだろう。本書はそうした関心に基づき、労働市場の分析を専門とする著者の視点で日本経済の現在地を読み解く。
人口減少がいち早く進む地方都市では、少子高齢化と都心への人口流出などの影響で、若い労働力が急減している。かつての予想に反してサービスへの需要は堅調なので、労働市場の需給はひっ迫、深刻な人手不足に陥っている。その結果、企業は利益を圧迫してでも、賃上げにとどまらない抜本的な労働条件の改善に踏み出さなくてはならない。地方の労働人口は、大都市圏の企業と労働条件を比較し、合理的な選択をするからだ。
こうした構造の変化は、いったいどのように引き起こされているのか。本書ではまず、日本経済における「10の変化」を解説する。要約では、そのうちいくつかをピックアップして紹介しよう。
人口という変数は最も精度が高く予想しやすいうえに、最も影響力の大きい経済指標である。まずはこの人口動態の変化から見てみよう。
日本は2000年代後半から人口が減少しつづけているが、他国と比較してもそのスピードは急速だ。したがって、それが経済に及ぼす影響も大きくなる。生産や消費の減少要因となるだけでなく、高齢者人口比率の上昇とそれに伴う年齢構成費の変化は、経済の需要と供給のバランスにも関わるだろう。
高齢者のなかでも、その年齢層によって経済社会との関わり方が大きく異なる。顕著なのは就労能力だ。2020年の総務省「国勢調査」によると、60歳時点では74.3%の労働力率が、70歳で38.3%、80歳で12.8%、90歳には3.3%まで下がる。保有資産や年金給付額、得られる賃金などが労働するかの意思決定に影響を及ぼすが、健康上働ける状態かはそもそもの条件となる。また、高齢になるほど医療や介護サービスの消費量が急速に増加することは、消費構造の大きな特徴だ。これは、「年齢を重ねるごとに人手を介したサービスへの需要が高まる」ことを指す。
以降で紹介するのは、こうした人口減少経済への移行がもたらす変化である。
2010年以降の実質GDP成長率を先進6カ国で比較すると、日本は0.6%で最下位、「かなり悪いパフォーマンス」である。日本の労働者の1時間当たりの労働生産性は、2010年から2021年までで年率0.9%であり、ドイツ、米国に次ぐ水準だ。したがって、日本経済が低迷しているのは労働生産性の問題ではなく、労働投入量(総労働時間数)の減少にある。
女性や高齢者の労働参加が急速に進んだことで就業率はアップしているが、それでは補えないほどに、労働人口の減少と労働時間の短時間化が進んでいるということだ。この傾向は持続的であり、「日本の経済成長率のさらなる鈍化は、もはや既定路線」と予想できる。
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