ほんとうの日本経済
ほんとうの日本経済
データが示す「これから起こること」
ほんとうの日本経済
出版社
出版日
2024年10月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

スーパーに買い物に行くと、何から何まで高くなっているような気がしてしまう。取引先からの連絡は価格を上げる内容のものが目立つ。インフレが起きているのだとしても、自分の賃金は上がっていないような気がしてならない。

本書は、多くの人が抱いているであろうそうした実感に寄り添いながらも、多くの公開データを詳細に検討することで、「ほんとうは何が起きているのか」を明らかにする。

少子化と超高齢化が進みつづけている近年の日本では、他の先進国よりも早く、多くの業界、地域で慢性的な人手不足になりつつある。一方で、こうした人口減少経済では、医療・介護を中心に「人手を介したサービス」に対する需要が高まる。この需給のひっ迫に、時給でみた場合の賃金は確実に上昇しているが、働き方改革の影響や労働と余暇に対する考え方の変化に伴い、年間総労働時間は減少した。この状況でこれまでの経営をできる限り維持していくためには、生産性を向上していくしかない。そのひとつの解決策が、機械化・自動化の導入なのである。

人の手による細やかなケアや人間ならではの創発性に注力し、人手不足の状況を補っていける体制づくりが急務だ。安く大量の労働力を投入する時代は、とうの昔に終わっている。人が働くとはどういうことなのかについて、よりつぶさに考えていかなくてはならない局面だ。

本書が示す現実と未来は、どの状況にいる人にも関係してくる。自分がこれから歩む道をうらなうためにも、ぜひ知っておきたい。

著者

坂本貴志(さかもと たかし)
1985年生まれ。リクルートワークス研究所研究員・アナリスト。一橋大学国際公共政策大学院公共経済専攻修了。厚生労働省にて社会保障制度の企画立案業務などに従事した後、内閣府で官庁エコノミストとして「経済財政白書」の執筆などを担当。その後三菱総合研究所エコノミストを経て、現職。著書に『ほんとうの定年後――「小さな仕事」が日本社会を救う』(講談社現代新書)、『統計で考える働き方の未来――高齢者が働き続ける国へ』(ちくま新書)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    少子高齢化が進み人口減少経済に入った日本は、「人手を介したサービスへの需要」が高まる一方で、労働市場の需給がひっ迫し、深刻な人手不足に陥っている。
  • 要点
    2
    日本経済が低迷しているのは労働生産性の問題ではなく、労働投入量(総労働時間数)の減少にある。
  • 要点
    3
    人手不足が賃金上昇圧力を強め、地方の中小企業では労働条件改善の経営改革が求められる。
  • 要点
    4
    エッセンシャルワーカーの分野は、「生産性が上昇しないまま膨張」した状態になっている。

要約

【必読ポイント!】 日本経済に起きている変化

深刻化する人手不足のなかで

日本のような経済規模をもつ国家で近年、日本ほど人口が持続的に減少した例を見ない。人口減少の経済への影響は自明なものではなく、この局面にある日本経済の将来像の予測から見えることもあるだろう。本書はそうした関心に基づき、労働市場の分析を専門とする著者の視点で日本経済の現在地を読み解く。

人口減少がいち早く進む地方都市では、少子高齢化と都心への人口流出などの影響で、若い労働力が急減している。かつての予想に反してサービスへの需要は堅調なので、労働市場の需給はひっ迫、深刻な人手不足に陥っている。その結果、企業は利益を圧迫してでも、賃上げにとどまらない抜本的な労働条件の改善に踏み出さなくてはならない。地方の労働人口は、大都市圏の企業と労働条件を比較し、合理的な選択をするからだ。

こうした構造の変化は、いったいどのように引き起こされているのか。本書ではまず、日本経済における「10の変化」を解説する。要約では、そのうちいくつかをピックアップして紹介しよう。

人口減少局面に入った日本
TanyaJoy/gettyimages

人口という変数は最も精度が高く予想しやすいうえに、最も影響力の大きい経済指標である。まずはこの人口動態の変化から見てみよう。

日本は2000年代後半から人口が減少しつづけているが、他国と比較してもそのスピードは急速だ。したがって、それが経済に及ぼす影響も大きくなる。生産や消費の減少要因となるだけでなく、高齢者人口比率の上昇とそれに伴う年齢構成費の変化は、経済の需要と供給のバランスにも関わるだろう。

高齢者のなかでも、その年齢層によって経済社会との関わり方が大きく異なる。顕著なのは就労能力だ。2020年の総務省「国勢調査」によると、60歳時点では74.3%の労働力率が、70歳で38.3%、80歳で12.8%、90歳には3.3%まで下がる。保有資産や年金給付額、得られる賃金などが労働するかの意思決定に影響を及ぼすが、健康上働ける状態かはそもそもの条件となる。また、高齢になるほど医療や介護サービスの消費量が急速に増加することは、消費構造の大きな特徴だ。これは、「年齢を重ねるごとに人手を介したサービスへの需要が高まる」ことを指す。

以降で紹介するのは、こうした人口減少経済への移行がもたらす変化である。

生産性は堅調、経済成長率は低迷

2010年以降の実質GDP成長率を先進6カ国で比較すると、日本は0.6%で最下位、「かなり悪いパフォーマンス」である。日本の労働者の1時間当たりの労働生産性は、2010年から2021年までで年率0.9%であり、ドイツ、米国に次ぐ水準だ。したがって、日本経済が低迷しているのは労働生産性の問題ではなく、労働投入量(総労働時間数)の減少にある。

女性や高齢者の労働参加が急速に進んだことで就業率はアップしているが、それでは補えないほどに、労働人口の減少と労働時間の短時間化が進んでいるということだ。この傾向は持続的であり、「日本の経済成長率のさらなる鈍化は、もはや既定路線」と予想できる。

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要約公開日 2024.12.11
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