あなたが何かを伝えると、相手は「お返し」という形で何か行動を取りたくなる。このシンプルな構図が、伝え方における原点にして王道だ。
とはいえ、あなたがやってほしいことを一方的に伝えるだけでは、相手は「してもらった」と感じないし、お返ししたくもならない。あなたが思い描いているポジティブな未来を伝えることで、相手に「これから起こる未来の中の良い選択肢を教えてもらった」と思わせる必要がある。
ポジティブな未来を見せるのが効果的な場面は、提案を採用してほしいとき、仕事をやってほしいとき、説得するとき、反省を伝えるとき、ダメ出しするとき、励ますときなどだ。伝えにくいことがある場合や、相手にとって一長一短があることを伝えるときには、ポジティブな未来を意識させるとうまくいく。
一方、断りたいとき、改善してほしいとき、指導するとき、交渉したいときなど、「相手はプラスに感じているようだが、こちらは困っている」「相手は特に気にしていないようだが、どうしても伝えたい」ときにはネガティブな未来を示そう。相手はそれを避けるための行動を検討してくれるはずだ。
伝える場面においては、まず相手の自尊心を傷つけないことを最優先すべきだ。自尊心とは、プライド、こだわり、信念、流儀、持論、成功体験とも言い換えられる。
ポイントとなるのは、自尊心を“相手と一緒に”満たすという心がけだ。相手がコストにこだわっているのなら、コストパフォーマンスに優れたプランを一緒に考えていく。ワークライフバランスを大切にしているなら、あなたも働き方を変えてみる。あなたが積極的に動けば、相手も動いてくれるだろう。
その人の自尊心は難しい仕事や大変な状況のときほど表れやすい。「あのプロジェクトで、重視したポイントは何だったのですか?」「最終段階でA案とB案があったと思いますが、決め手はどこでしたか?」などと具体的な事例を交えながら質問すると、相手の自尊心を満たすポイントを見つけやすくなる。
相手に動いてもらいたいなら、ハードルはできるだけ小さくしよう。
「議事録のクオリティを上げてくれ」ではなく、「スマホで会議をまるっと録音してみようか」。「コストダウンしてくれ」ではなく、「この項目の費用をリストアップしてみよう」。これくらいハードルが低ければ、相手は拍子抜けしながら動いてくれる。
いくつかの選択肢を示し、相手に選んでもらうのもよいだろう。特に相手が決断しなければならない場面では、複数の選択肢を用意することで、相手の負担を軽減できる。
「今日中に資料の提出が間に合わないので、明日にさせてください」ではなく、「総括の3ページだけで良ければ、今日中に仕上げられます。もしくは全体を明日16時までに完成させるか、どちらがよいでしょうか」。「新商品のためのデジタルキャンペーンをご提案させてください」ではなく、「最新事例のご紹介もできますし、御社の業界を専門としているアナリストをご紹介することも可能です」といった具合だ。
お願いをする場面では、「仕事なんだから、頼み事はやってもらって当然だ」というマインドは捨てて、自分も相手に何か提供できないかを考えてみよう。
これは、お願いする代わりに別の仕事をするということではない。相手にフィードバックやアドバイス、目標を提供するということだ。相手のスキルに対するポジティブなフィードバックはモチベーションにつながり、短期的で具体的な目標はスムーズなキックオフに役立つ。
相手があなたのお願いに応えるときに役立ちそうなものを探してみよう。
「レポート期限を延長してください」は「時間をいただければ、このレベルまで磨き込めます」に言い換えよう。
ネガティブに見えかねないお願いをする際には、相手にとってのポジティブな未来を見せるのが有効だ。
レポート期限を延長してほしいなら「期限を延長することでどのような利益が生まれるのか」や「どんな未来を回避することができるのか」を具体的に示すと、自分本位に見えかねないお願いが、両者にとってメリットのあるものへと変化する。
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