理化学研究所と、著者の所属する編集工学研究所の共同事業に「科学道100冊」というプロジェクトがある。これは、100冊の書籍の紹介を通して、科学者の生き方や科学の面白さを広く人々に届けることを目的とした事業だ。100冊の構成を組み立てるにあたって、科学者の思考プロセスをモデル化することになった。多くの科学者へのインタビューと編集工学の視点から導いた探究思考のプロセスは、次のような6つの見出しにまとめられた。
1.はじまりは疑問
2.果てしない収集
3.導かれたルール
4.めくるめく失敗
5.まるで魔法
6.未来のはじまり
書店や図書館のフェアから始まり、学校の先生からも注目されるようになると、「6つのプロセスはまさに子どもたちに伝えたい探究のプロセスです」というコメントとともに、ある先生からこんな疑問が届いた。「最初の“はじまりは疑問”はどうするとはじまるのでしょう?」
人はなぜ疑問を抱くのか。その疑問を持ち続ける人がいるのはなぜか。著者はこれにうまく答えられなかった。以来、「人はいかにして問うのか?」という「問い」が、著者の宿題となった。
「科学道100冊」に注目してくれた先生や、編集工学研究所が人材育成や組織開発のお手伝いをしている企業から話を聞くと、子どもも大人も「はじまりは疑問」の段階に問題を抱えていることがわかった。「いかに問うか」が大切であることは多くの人が認識しているにもかかわらず、肝心の「問い方」がわからないのだ。
本書は、「問いはいかに生まれてくるのか」という、自分の中から「内発する問い」とその発生のメカニズムについて、人間の編集力に重ねて考えようと試みる。
「問い」はすでに知っていることと、まだ知らないことのズレから生じる。「問う」という行為は、つきつめれば「情報」を「編集」することだ。私たちは普段の生活の中で、あらゆる「情報」に囲まれ、それを「編集」しながら生きている。「問いの編集力」は、誰もが持っている「編集力」によって、その人ならではの内発する「問い」を引き出そうとする試みである。
「問いの編集力」とは、「問いを引き出す編集力」であり、「問いに宿る編集力」であり、「問いの姿をした編集力」であるとも言える。人間だけに許された「問う」という知的営みをアップデートするプロジェクトを始めよう。
3,400冊以上の要約が楽しめる