長期利益を追求する企業経営においては、同じ土俵でたたかう完全競争の前提を壊し、競合との違いを生むことが戦略の基盤となる。しかし、インターネットの登場でますます情報流通コストが下がっているいま、競合の情報はすぐにシェアされ、優れた経営システムも企業を超えて移転できる。すぐに完全競争に近い状態となってしまうこの環境において、それでも持続的な利益を生み出せる強い企業には、どのような論理があるのだろうか。
「利益を出し納税する」ことは「企業の社会貢献の本筋」であり、稼ぐ力によって労働分配が可能になる。この利益の源泉には、その持続性によっていくつかの段階がある。
レベル1は、景気や「巣ごもり需要」などの外部環境を追い風とするもので、この風が止まれば利益も消える。レベル2は事業立地だ。もとから収益性の高い業界もあれば、その逆もある。かと言って儲からない事業を切り離すだけでは、レッドオーシャン化した事業ばかりでポートフォリオを組むことになってしまう。
そこで大事なのが、レベル3のポジショニングだ。差別化された独自性を確立し、磨いていく。2024年時点は半導体企業が好調だが、そのなかでも東京エレクトロンなどは独自の戦略で長期利益を形成してきた。東京エレクトロンに代表される首尾一貫した戦略ストーリーは、レベル4である。
「目先の小さな損得に流れず、将来に向けた戦略ストーリーを構想し、攻めの投資に踏み切れるか」。これをドライブできる経営者にいま、注目が集まっている。
「イノベーションが重要だ」とはよく言われるが、イノベーションとはけっして「新しいことをやる」という意味ではない。シュンペーターは名著『経済発展の理論』において、イノベーションとは「非連続的な変化」のことであり、それが経済発展の原動力になると書く。スマートフォンの機能や電子機器の消費電力が改善されることは連続的な「進歩」であり、「『何がいいか』という価値次元そのものが変わる」イノベーションとは異なる。
ただ、イノベーションも世の中の人びとの需要と無関係ではない。社会に受け入れられるという、ある種の連続性も満たす必要がある。
そこで重要なのが保守思想だ。ここでは保守を「歴史や伝統、過去の蓄積を重んじる考え方」と広く捉える。「人間の本性は不変」という見方だ。技術は非連続的に発展することもあるが、「顧客の需要は本質的に連続している」という点で、イノベーションと保守思想は併存する。
たとえばソニーの「ウォークマン」は、それまで開発されていた小型軽量の再生メディアより音質が劣り、録音もできない点で、技術的には「退歩」している。それでも、「音楽をいつでも、どこでも自由に楽しみたい」という人間本来の欲求に応え、音楽の新しい楽しみ方を社会に定着させた。
人間の不変の需要を深くつかむからこそ、イノベーションは生まれるのだ。
フィナンシャルタイムズのコラムニスト、ジェマイマ・ケリーはメタバースについて、「最大の問題は、メタバースを求めている人がいないことにある」と書いている。メタバースは技術の体系であり、「事業や商売そのものではない」。この技術をどう利用すれば儲けられるかに焦点がある。
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