行動経済学BEST100
世界最先端の研究が教える新事実
行動経済学BEST100
行動経済学BEST100
出版社
総合法令出版

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出版日
2024年02月20日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.5
革新性
3.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「つまづいたって いいじゃないか にんげんだもの」

これは、日本の詩人・書家である相田みつを氏の代表的な作品だ。

2017年にノーベル経済学賞を受賞し、行動経済学を専門とするリチャード・セイラ―教授は、氏の作品や考え方に共感しているという。行動経済学と「にんげんだもの」に何のつながりがあるのか、と不思議に思うかもしれない。だが本書によると、行動経済学とは心理学と経済学が融合し、「人間らしい」行動を対象にした比較的新しい学問なのだという。

かつて経済学では、人は常に冷静沈着で、合理的に行動すると仮定していた。しかし実際そうでないことは、歴史を見れば明らかだ。ダメだとわかっていて突き進むこともあれば、個人の利益を度外視して、誰かのために身を粉にすることもある。人間とは不合理な行動を取る存在なのである。

本書はマーケティングのプロであり、長年にわたって行動経済学のビジネス活用を促進してきた著者が、身近な事例と世界最先端の研究を基に、わかりやすく行動経済学を教えてくれる。要約では本書に掲載される100の研究から、とくに印象的なものを抜粋してお届けする。

行動経済学に興味はあるが難しい理論から入りたくない方や、消費者心理を知ってビジネスに活かしたい方にぴったりの一冊だ。また、無意識に取ってしまう行動を認識することで、日々の生活でも賢い選択ができるようになるだろう。

ライター画像
Naoko Kubota

著者

橋本之克(はしもと ゆきかつ)
マーケティング&ブランディングディレクター/著述家
東京工業大学卒業後、大手広告代理店を経て1995年日本総合研究所入社。環境エネルギー分野を中心に、官民共同による市場創造コンソーシアムの組成運営、自治体や企業向けのコンサルティング業務を行う。1998年よりアサツーディ・ケイにて多様な業界の企業に向け、行動経済学による調査分析や顧客獲得業務を実施。2018年独立。「30年以上の経験に基づくマーケティングとブランディングのコンサルティング」、「行動経済学をビジネスに活用する企業の支援」を行う。関連する執筆・講演も多数。2020年より昭和女子大学「現代ビジネス研究所」研究員、2023年より戸板女子短大で非常勤講師を兼任。主な著書は『今さら聞けない行動経済学の超基本』(朝日新聞出版)、『9割の買い物は不要である』(秀和システム)、『9割の人間は行動経済学のカモである』(経済界)ほか。
連絡先:hasimotoyukikatu@gmail.com

本書の要点

  • 要点
    1
    グーグルは「ナッジ(nudge)」に基づき、社員に健康的な食事を摂らせることに成功した。ナッジとは強制や命令に頼らず良い行動に導く手法で、様々な場面で活用されている。
  • 要点
    2
    何かを手に入れると、それに価値を感じて手放したくなくなる。この心理を「保有効果」と呼ぶ。
  • 要点
    3
    マリッジブルーになるのは、時間の経過とともに判断や評価が変わる「解釈レベル理論」のせいである。結婚前に感情が不安定になるのは「心が弱い」からではない。
  • 要点
    4
    人がサブスクをやめられないのには、「現状維持バイアス」が関わっている。

要約

【必読ポイント!】背中を押される行動経済学

グーグル社員が健康である理由

「食事はすべての基本だ」と考えるグーグルは、社員に無料で飲食物を提供している。日本オフィスでもランチは無料で、デザートを含めた豊富なメニューがすべて無料で提供されるため、太ってしまう人もいるようだ。

そこでグーグルは「社員の寿命を2年延ばす」ことを掲げ、その施策を実行した。その1つが、ニューヨークオフィスの食堂のレイアウト変更だ。社員ができるだけ健康的なものを摂取し、かつ必要以上に食べ過ぎないような工夫をしたのだ。

具体的には、野菜や果物を目立つ場所に置き、デザートは目立たない場所に配置した。また、デザート容器を小さいサイズにしたり、皿置き場には「大きいお皿を使う人ほど、よりたくさん食べる傾向があります」と表示したりもした。

効果は開始してすぐに出始めた。1週間で菓子類のカロリー摂取は9%低下し、小皿の利用率は1.5倍に上がった。また、甘いソーダ飲料の代わりにミネラルウォーターを取りやすい場所に移動させたら、水の摂取量は47%増え、飲み物からのカロリー量は7%減少した。

グーグルの取り組みは、行動経済学の「ナッジ(nudge)」に基づいている。ナッジは強制や命令に頼らず良い行動に導く手法で、様々な場面で活用されている。

強制せずに合理的な行動を促す
MilanEXPO/gettyimages

ナッジの仕組みは、選択者の自由意思への影響を少なくしつつ、合理的な判断へ導く「選択アーキテクチャー」と呼ばれるものだ。主なパターンには次の4つがある。

(1)選択肢をわかりやすくすることで行動を促す「選択の構造化」

(2)望ましい選択をあらかじめ初期設定にする「デフォルト」

(3)何らかの行動を起こした人に対して、その内容に応じた反応を返す「フィードバック」

(4)特定の行動を取った際に得する仕組みを作り、無意識にその行動を取るよう動機づける「インセンティブ」

「選択の構造化」の一例を挙げると、飲食店のメニューに表示されている「店長のおすすめ」マークや、カレー料理などの「辛さのレベル」マークがある。

「デフォルト」の例は、新品のスマホにあらかじめインストールされているアプリだ。放置するとメモリーの無駄遣いになるが、不要なアプリをチェックして削除していくのは手間がかかる。設定変更の負担を避け、初期状態を受け入れるように仕向けているのだ。

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要約公開日 2025.01.10
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