なぜ、愛は毒に変わってしまうのか
なぜ、愛は毒に変わってしまうのか
なぜ、愛は毒に変わってしまうのか
出版社
出版日
2024年10月22日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

親という言葉に毒をつける。毒親というのは非常にインパクトの強い言葉だ。愛情がない、もしくは愛情が強すぎるがゆえに子どもに傷を与える存在。そうした毒親について分析し、毒親との向き合い方を考えるというのが本書の趣旨である。

毒親はSNSなどでも非常に関心の高いトピックだ。毒親をテーマにした作品も多く目にするようになった。しかし、それを冷静に分析した人は少ないように思える。いや、そもそも冷静になれるようなものなのだろうか。本書のタイトルを見てみよう。『なぜ、愛は毒に変わってしまうのか』。ここには、毒親の毒は愛であるという重要な指摘が含まれている。

愛情が必ずしも子どもにとっていい影響を与えるとは限らない。その愛がなんらかの理由で適切に伝わらなかったとき、子どもにとっては毒になってしまうこともある。本書の強みは、批判されがちな親のふるまいの本質を分析しているところにあるのかもしれない。

しかし、客観的ではあっても決して他人事のような冷たさはない。むしろ、子どもや親の持つ痛みが心に突き刺さるようだ。著者の感性とたぐいまれなる省察力が、読者に当事者の痛みを伝えるのである。

毒親問題は、よく言われるような気の持ちようや本人の努力だけで乗り越えられるようなものではない。豊富な研究成果や事例の分析からくる客観的な視点、そして親と子の痛みを理解し寄り添う視点。このふたつの視点を用いて毒親問題を解決しようとするところに、本書の強みがある。

著者

中野信子(なかの のぶこ)
1975年、東京都生まれ。医学博士、脳科学者、認知科学者。
1998年に東京大学工学部応用化学科を卒業し、2008年東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程を修了。フランス国立研究所ニューロスピンにて博士研究員として勤務し、2010年に帰国。研究・執筆を中心に活動したのち、2013年に東日本国際大学客員教授、横浜市立大学客員准教授、2015年に東日本国際大学教授に就任。2020年京都芸術大学客員教授に就任。
現在、脳科学や心理学をテーマに研究や執筆・講演活動を精力的に行っている。科学の視点から人間社会で起こりうる現象及び人物を読み解く語り口に定評がある。
主な著書に『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』(ポプラ新書)、『正しい恨みの晴らし方』(共著、ポプラ新書)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    人間は他の動物と違って、育児に必要な技術や知識をあらかじめ持っているわけではない。かつては、地域社会や親戚がそういった経験不足を補っていたが、今はなかなかそのリソースを活用しにくい。
  • 要点
    2
    可愛がろうとするほど、かえって強く当たってしまうという仕組みが人間にはある。愛情があっても正しくそれが子どもに伝わらない。人はこうした矛盾と不条理を抱えて生きている。
  • 要点
    3
    こじれた親子関係は脳の発達にダメージを与える場合がある。これは大人になっても正しい愛情表現ができないなどの影響を残す。適切に自分の感情を伝えることが難しくなるのである。

要約

毒はどこから来るのか

親から遠い人間という動物
Prostock-Studio/gettyimages

もし仮に、親が育児のプロであるならば、大きな不都合などは起きないだろう。

人は育児という面で他の動物とは違う。多くの哺乳類はある程度育児をまっとうできる共通した能力を持つ。しかし人間は、あらかじめ育児に必要な情報を与えられていないし、学習しなければ身につくこともない。そしてなにより、親になるのにかなり長い時間を要する。そのため、「親としての準備は不十分になりがち」なのだ。

かつて、そうした経験不足をフォローしていたのが、祖父母やおじやおば、地域の人々などであった。現在の日本社会には、そうしたリソースを利用するのが困難な人が多くいる。知識も経験も不完全なまま、誰からも支えられずに子どもを育てていくしかない、という親が続出しているのだ。何もわからないまま、必死に子どもを育て、自分の時間を作れず、理想の親になれないことに苦悩する。子どものころに感じた親への切実な願いが、ふとした瞬間に頭をもたげ、記憶の中でうずくまって泣いている幼い自分を発見してしまう。

親子関係に恵まれた幸運な人と、育児に苦しんでいる人は、一体何が違うのか。その苦しみは果たして解決できるのだろうか。

親子の情に対して科学のメスが入ることに、人々は長い間否定的だった。現在、技術の進歩やネット環境の浸透によって、家族関係や人間同士のつながりは変化の波にさらされている。そんな今だからこそ、「科学によって人間関係を冷静に捉える試みを振り返る必要がある」のではないか。

人は生後6カ月から1歳半までの間に、対人関係の基盤を親子関係から学ぶ。しかし、この型は大人になってからでも変えることができる。心に抱える痛みを、「価値的な生き方をつかんでいく源泉へと転換していくきっかけ」としていくために、本書は書かれた。

毒親問題とは何か

「毒親」という言葉が注目され、今なお高い関心を向けられている。心理的なネグレクト、精神的な虐待、過干渉などによって子どもの成長に「毒」のような影響を与える。そうした振る舞いをする親が、こう呼ばれている。

親と子の関係はあまりにも深すぎて、当人からすれば解決するのがとても難しいことのように思えてくるだろう。これが赤の他人であればその人と距離をとればいいが、親ともなればそうはいかない。物理的に親と距離をとれたとしても、自分の記憶の中に親が生き続けてしまう。何かをしようにも親の幻影がちらつき、きっかけがあれば即座に思い出してしまう。そこにわだかまりがあれば、見えない鎖となってその人を縛りつける。毒親とは、「自分に悪影響を与え続けている親その人自身」というより、「自分の中にいるネガティブな親の存在」と表現したほうが適切なのかもしれない。

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要約公開日 2025.01.19
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