人生の壁
人生の壁
人生の壁
出版社
出版日
2024年11月20日
評点
総合
3.7
明瞭性
4.0
革新性
3.5
応用性
3.5
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おすすめポイント

平成で一番読まれた新書『バカの壁』をはじめとした「壁」シリーズは、累計700万部突破の大人気シリーズだ。その最新作である本書で著者の養老孟司氏がテーマにするのは「人生」である。「自分の人生も残り少なくなった」と語る著者が、子どものこと、青年のこと、世界のこと、そして日本のことを考えていく。

人生で「壁」にぶつからない人など存在しない。問題はそれにどう対処するかだ。しかし、本書は、「人生の壁」を乗り越える特効薬を提示しようというのではない。むしろ、自分が排除したいと願う「壁」は、「抱え込むべき厄介ごと」かもしれない、自分こそが他人の人生の「壁」になっているかもしれないと、これまで考えていた「人生の壁」のイメージを塗り替えていく。人生の意義などわかるわけはない、結局はいまを懸命に生きるしかない、こうした言葉は、87歳になった養老氏から発せられるからこそ説得力がある。

人生相談も請け負う養老氏は「とらわれない」「偏らない」「こだわらない」という3つの人生哲学を通して、現代人が直面する「壁」を乗り越えるためではなく、受け入れるための指針を提示する。結局、人生は厄介なものなのだ。それを否定せず、むしろ楽しむこと。これこそが「人生の壁」を抱えながらも前進する力になる。養老氏の言葉には、壁にぶつかり悩みながら生きるすべての人々への温かいエールに満ちている。

ライター画像
池田友美

著者

養老孟司(ようろう たけし)
1937(昭和12)年、神奈川県鎌倉市生まれ。解剖学者。東京大学医学部卒。東京大学名誉教授。1989年『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。2003年の『バカの壁』は460万部を超えるベストセラーとなった。ほか著書に『唯脳論』『ヒトの壁』など多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    子どもに手間をかけたがる親は多いが、子どもは基本的には勝手に育つという視点を忘れてはならない。手間をかけたほうが良い結果になるという考えは幻想にすぎないのだ。
  • 要点
    2
    著者が小学生の頃、敗戦によって世の中がひっくり返った。解剖学の道に進んだのは、基礎学問がひっくり返ることがないと考えたからだ。
  • 要点
    3
    人生相談への回答は、「とらわれない」「偏らない」「こだわらない」の3つに集約される。

要約

【必読ポイント!】 子どもの壁

子どもを上手に放っておきたい

少子化が大きな問題になっている。少子化が進めば国全体に大きな影響があるのは言うまでもないが、出生数よりも心配なのは子どもの自殺の多さだ。2023年の日本人の10〜30代の死因のトップは「自殺」。若い世代の死因で病気が少ないのは当然ではあるが、他国と比べて事故より自殺が非常に多いのが特徴だ。

若い世代にここまで自殺が多い社会は健全とはいえない。若くして健康の問題を抱えている人もいるが、基本的には活力にあふれ、人生で一番楽しい思いをしていなければならない時期であるはずなのに、死にたくなるような思いをしている子どもが多いということなのだから。虐待などの明らかな問題がない家庭であっても、子どもにとって本当に良い環境をつくれているかを本気で考え直さなければならない。

いまの子どもたちは習い事が多くて忙しいとよく聞く。親は手間やお金をかけて子どもを大切にしていると思っているかもしれないが、あれこれ習わせれば子どもが良い方向に育つというのは幻想ではないだろうか。乱暴に言ってしまえば、子育てにあたって親が気を使うべきは、子どもを危ない目に遭わせないことと、食事をちゃんと与えることくらいである。

子どもに手をかけたほうがいいという錯覚
Yagi-Studio/gettyimages

著者の世代は、親に手をかけて育てられたことのない人がほとんどだ。こう言うと、「時代が違う」と思われるかもしれないが、時代が変わっても変わらないことは多くある。

水泳やピアノのように、習わないと身につかないことを習う意味はたしかにある。だが、それらの英才教育をしたからといって、みながプロフェッショナルになるわけではないことはわかりきったことだ。

小泉英明さん(日立製作所名誉フェロー)は、長年子どもを対象にした「コホート研究」に取り組んでいる。コホート研究では、同じ人を長期間追跡して調査し、何らかの要因と結果を検討することができる。一人だけの変化を見ても意味がなく、統計的に意味のあるデータを取るには数千人を対象に長期間調査をしなければならない。手間も予算もかかる研究だ。

小泉さんによれば、1、2歳くらいまでに褒めて育てた子どもとそうでない子どもでは、その後の社会での能力に差が出たそうだ。乳幼児期には、褒めて育てられるのが非常に大切だということだ。

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要約公開日 2025.01.28
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