東大ファッション論集中講義
東大ファッション論集中講義
東大ファッション論集中講義
出版社
出版日
2024年09月10日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
3.0
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おすすめポイント

この世界のほとんどの人が、日常的に服を着て暮らしている。服といえば、衣食住に数えられるほど生活に必須のものだとみなされている。自分が今着ている服をどこで買ったのか、答えられない人はそれほどいないだろう。

しかし、その服がいつから存在し、どのような歴史の上に成り立っているのかと答えられる人は、ほとんどいない。私たちは自分たちが毎日着ているものについて、驚くほど無知ではないだろうか。

本書は東京大学にて行われた講義をまとめたものである。それも一般教養を学ぶ駒場キャンパスではなく、専門学部が置かれる本郷キャンパスの文学部にて行われた、一度きりの集中講義だ。我々が身につけている服が、果たしてどのような流れを経て今に至るのか、専門的なファッション論への入門として、親切さと奥深さを両立した講義録となっている。

ファッションという言葉は軽薄な印象と共に語られがちであり、学問として認められなかった時代が長かった分野でもある。一方で、ファッションは我々の身体と密接なかかわりを持ちながら、世界中を巻き込んだ一大産業として成立してもいる。本書を通じて、ファッションがどこから“着て”そしてどこへ行くのか、自分の着ている衣服の過去と未来に思いを馳せてみてほしい。

ライター画像
池田明季哉

著者

平芳裕子(ひらよし ひろこ)
神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授。1972年東京都生まれ。東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。博士(学術)。専門は表象文化論、ファッション文化論。主な著作に『まなざしの装置――ファッションと近代アメリカ』(青土社)、『日本ファッションの一五〇年:明治から現代まで』(吉川弘文館)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    西洋の衣服は、身体に合わせて布を裁断し、縫い合わせることが特徴的である。身体をすっぽりと覆いたいという欲望には、母親から分離された胎児としての不安が関係している。
  • 要点
    2
    服は長く仕立屋による一点ものであったが、見本を先に見せてからその通りに仕立てるオートクチュールを経て、プレタポルテと呼ばれる既製服が発展することで、ファッションデザイナーの地位は確立されていった。
  • 要点
    3
    衣服は常に身体にまとわれるものであるがゆえに、身体をテーマにしたアートとも密接なかかわりを持ってきた。身体をイメージ化、実体化するものこそがファッションである。

要約

【必読ポイント!】 裁断と縫製――衣服に起源はあるのか

服を着るのはなんのため?

人はなぜ服を着るのだろうか。「身体を保護するため」「身分や職業を表示するため」「自己を表現するため」「他者を誘惑するため」など、さまざまな理由を挙げることができるが、機能や実用性だけにその理由を求めていても答えは得られないだろう。

では、最初に服を着たのはいつだっただろうか? 私たちは生まれたときから布でくるまれ、幼少期には周囲の大人に着替えを手伝ってもらっていた。服はあまりにも身近であるため忘れられがちだが、誰も自分ひとりで服を着られるようになったわけではない。自らの意志で服を着ることを選んだのではなく、誰かが私たちに服を着せたのである。

根源的な行為
AsiaVision/gettyimages

『皮膚―自我』の著者であるディディエ・アンジューは、人間が服を着る以前である胎児の状態に注目した。胎内はあらゆるものが渾然一体とした世界であり、自他の区別がない。不安のない理想の世界にいた胎児は、誕生によってこの世に投げ出され、切断の傷を負う。そのため、人は完璧に包みこまれていた状態を取り戻そうとする。

E・ルモワーヌ=ルッチオーニは『衣服の精神分析』の中で、「胎盤が取り除かれてしまったために、人間は服を身につけて、その上の表面を作ろうとする」と述べた。そのためにどのような衣服がふさわしいのかといえば、それは胎児が母親に包まれていたように、人間の身体をぴったり覆い、皮膚をなめらかになぞる服である。それを可能にする「ひと連なりの生地に切り込んでいく鋏」を、ルモワーヌ=ルッチオーニは根源的なものと見なした。鋏は、「衣服を作るのにふさわしい形をそこから引き出すため」にあるからだ。

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要約公開日 2025.01.24
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