マーケティングのための因果推論
マーケティングのための因果推論
偶然と相関の先へ進む因果思考 ‐ マーケ戦略を再定義する分析スキルとは
マーケティングのための因果推論
出版社
出版日
2025年03月11日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.0
応用性
4.5
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おすすめポイント

YouTubeを観ていて、前から気になっていたゲームのCMが途中で流れ、ついポチってしまう。駅から見える看板の広告が印象に残って、新しいサブスクサービスを登録する。

人びとの行動を左右しているように見える、多種多様な広告たち。しかし、その真なる効果がいかようなものか、具体的に言及するのはなかなかに難しい。インターネット広告では、キャンペーン単位でインプレッション、クリック、コンバージョンなどを計測し、コストと効果を定量化できることから、テレビなどへのマス広告に比べて効果測定をしやすい。それでも、ユーザがもとから持っていた関心やバイアス、他の広告の影響まで考慮に入れると、途端に不明瞭となる。

その困難さに対して、因果推論という科学的な手法を持ち込もうというのが本書だ。

マーケティングにおいて、理科の対照実験のようなことに予算を割けるステークホルダーは少ない。そこで、実際のキャンペーンの後に得られたデータを用いた「観察研究」を行なうことになる。データに対して因果仮説を立て、季節性のような影響要因に対して適切な処理を施すことで、「あたかも実験で得られたデータ」のようにみなす。ざっくりいえば、これが因果推論の骨子だという。

本書のスタンスにあわせて「マーケティングを舞台として因果推論を学ぶ」うち、データを眺めるだけでは見えてこない人間行動が、顔を見せる。「マーケティング」と冠された本ではあるけれど、数字のマジックに引っかかりがちな私たちの誰もが、身につけて損のない手法である。ぜひとも、たたかってみよう。

著者

漆畑充(うるしばた みつる)
1982年愛知県生まれ。
株式会社Crosstab代表取締役。
慶應義塾大学理工学部卒業、慶應義塾大学院理工学研究科修士課程修了。
金融機関向けデータ分析業務に従事。与信及びカードローンのマーケティングに関する数理モデルを作成。その後大手ネット広告会社にてアドテクノロジーに関するデータ解析を行う。またクライアントに対してデータ分析支援及び提言/データ活用アドバイザーリー・コンサルティング業務を行う。2019年株式会社Crosstab(HP: https://crosstab.co.jp/)を創業し今に至る。
統計モデルの作成及び特にビジネスアウトプットを重視した分析が得意領域である。統計検定1級。
著書に『現場のプロが伝える前処理技術〜基礎から実践まで学ぶ テーブルデータ/自然言語/画像データの前処理』(マイナビ、2020/8)、『AI・データ分析モデルのレシピ』(オーム社、2021/6)がある。

五百井亮(いおい りょう)
1986年兵庫県生まれ。広島県育ち。
エディンバラ大学修士課程修了(情報学)。
IT系コンサルティングファームを経て広告業界に移り、データ分析に従事しながら分析部門のマネージャーを務めた。
また、データ分析関連の特許取得や国内外の大学との共同研究も経験した。
現在はSIerのDX推進部門のチームリーダーとして、流通、金融など様々な業界のデータ分析・活用を支援している。

本書の要点

  • 要点
    1
    多くの例では「因果関係があれば相関関係がある」が、「相関関係があれば因果関係がある」とは必ずしもいえない。
  • 要点
    2
    データを見ただけでは、それが疑似相関なのか原因・結果の関係にあるかを判断するのは難しい。その解釈は、「データの生成過程に深く依存している」。
  • 要点
    3
    データ加工やフィルタリングなどを通してそこに含まれる偏りをできるだけ排除し、ランダム化比較試験に近似した理想的な状態を実現するための技術が、統計的因果推論である。

要約

【必読ポイント!】 なぜマーケティングに因果推論が必要なのか

相関か因果か
Davizro/gettyimages

Amazonなどが採用しているレコメンドアルゴリズムのような技術は、アイテム間の購買傾向の類似性を利用したものであり、相関はその一種だ。この場合の相関とは、「アイテム間の併売の起こりやすさ」を示す。

ここで注意したいのは、同時に購入されやすいことと、片方の購買がほかの商品のニーズを生み出していることは違うということだ。プリンターの購入がインクの購入を促すのは補完材として因果の関係にあるが、おむつとビールが併売されやすいという現象は相関の関係にすぎない。この違いを認識しておくことはマーケターにとって重要となる。

「相関している」とは「対応している相異なる2つの変数の値が関連して動く傾向にある」状態を指す。因果関係を少しカジュアルに定義するなら、「一方の変数を変化させる(その変数以外は動かさない)と他方の変数の値も変わる」2変数の関係だ。広告出稿額を増やしたら広告表示回数も増える、というようなことである。多くの例では「因果関係があれば相関関係がある」。

逆に、「相関関係があれば因果関係がある」とは必ずしもいえない。アイスクリームの生産量が高い時期に水難事故が増えているからといって、アイスクリームの生産を止めたら水難事故がなくなるわけではない。このように、暑い季節といった共通の要素が2変数間に相関関係をもたらしているとき、これを疑似相関と呼ぶ。

データを見ただけでは、それが疑似相関なのか原因・結果の関係にあるかを判断するのは難しい。また、サンプルサイズが小さすぎると、たまたま相関しているように見えることがある。

誤った推論とは

アメリカでは、アメフトの勝敗が株式市場の動きと連動して見える現象について、そこに「科学的な因果関係を仮定することは現実的ではない」という捉え方が主流である。相関関係を持つデータにもとづいてこのように仮説を立てることは、ビジネスの意思決定において、思わぬ落とし穴となる可能性もある。

次のようなケースを考えてみよう。A社は、関東と関西で、新規顧客獲得のための地域別の広告キャンペーンを展開することになった。もともと関西は主要な市場であり、商品浸透率やブランド知名度は非常に高い一方で、関東では改善の余地があったため、関東での広告出稿を増やした。そして、広告を見た人と見ていない人とで商品の購買割合にどのような変化が生じたか、効果測定を行なった。

その結果、関東と関西のいずれも、広告を見た人のほうがそうでない人よりも購買割合が高くなった。しかし、関西と関東を合わせた全体の数値で見ると、広告を見ていない人のほうが高いという結果になってしまった。

このように、関西と関東のような変数で切り出した集計と、全体の集計データとで整合性がとれなくなる現象を、シンプソンのパラドックスと呼ぶ。

パラドックスを克服する手法

データだけを眺めても正解は判断できない。その解釈は、「データの生成過程に深く依存している」のだ。そこで因果の仮説を立てて考えてみる必要がある。

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要約公開日 2025.04.19
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