孫正義の参謀
孫正義の参謀
ソフトバンク社長室長3000日
著者
孫正義の参謀
出版社
東洋経済新報社
出版日
2015年01月22日
評点
総合
4.5
明瞭性
5.0
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

今では世界から稀代の経営者と称賛される、ソフトバンク株式会社代表取締役社長 孫正義。次々と大胆な施策をやってのける彼を支える参謀の仕事とは、一体いかなるものであろうか。本書の著者である嶋聡は衆議院議員を3期9年務め、ソフトバンクの社長室長に転身して8年間に亘って孫正義を支えた、こちらも稀有なバックグラウンドを持つ参謀だ。

ボーダフォンジャパンを買収し利益でNTTを抜き、米国3位の通信キャリアであるスプリントを買収、投資先のアリババ集団のIPOで膨大な含み益を得た――こうしたソフトバンクや孫正義の劇的な展開に魅せられ、ソフトバンクを題材にした書籍や記事は数多い。そのなかでも本書では孫正義に最も近い存在の1人と言うべき社長室長の立場から、どのような世界が見え、何をして支えてきたのかが描かれており、類書とは一線を画するものだ。

本書は442ページからなり、通読するのに時間がかかりそうであるが、著者の丁寧な描写とめくるめく展開に、時を忘れて読み進めてしまうような面白さがある。通信業界やIT業界に関わる人だけでなく、経営に携わる方や、純粋に孫正義氏のファンであるという人にとっても、時間をかけて一読すべき良書であろう。

事実は小説より奇なり。著者が支えたソフトバンクの激動の日々は、あらゆる経済小説よりもドラマティックなものだ。

ライター画像
大賀康史

著者

嶋 聡(しま さとし)
1958年岐阜県生まれ。名古屋大学経済学部卒業。松下政経塾第2期生。政経塾卒塾後、塾の指導塾員、研究所長、東京政経塾代表を務める。1996年より衆議院議員に当選、3期9年を務める(新進党→民主党)。2005年、郵政解散による総選挙で落選。政界からビジネス界へのトップランナーになることをめざし、孫正義社長を補佐するソフトバンク社長室長に就任。「孫正義の参謀」「懐刀」などと呼ばれる。2014年4月より同社顧問。東日本大震災復興支援財団評議員、東洋大学経済学部非常勤講師などを兼務。著作に『政治とケータイ』(朝日新書)、『「大風呂敷経営」進化論』(PHP研究所)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    2005年に行われた郵政解散総選挙での落選を契機に、3期9年を務めた衆議院議員からソフトバンクの社長室長に転じた著者の視点から、孫正義氏とソフトバンクの激動の日々が綴られている。
  • 要点
    2
    ボーダフォン日本法人の買収後、一時は利用者の3分の1が離れてしまうかもしれない危機的状況を迎えたが、ソフトバンクはホワイトプランの投入や積極的なCM展開を経て、純増数No.1を実現していった。
  • 要点
    3
    ソフトバンクは、光ファイバーを中心とした超高速ブロードバンドを全国民に行きわたらせる「光の道」構想を支援していくも、NTTの抵抗や内閣改造を経て、実現が非常に厳しい状況となってしまった。

要約

序章

ソフトバンク社長室長、8年3000日
Vepar5/iStock/Thinkstock

2014年5月7日、ソフトバンクの決算説明会で、売上高は6兆7000億円、営業利益は1兆円を超えたと発表した。営業利益が1兆円を超えた会社は、日本経済史上においてNTT、トヨタ自動車、そしてソフトバンクの3社だけである。もちろんソフトバンクが設立後最短、最速での達成だ。

2005年9月11日の郵政解散総選挙で、民主党に所属していた著者は衆議院議員の議席を失った。その4日後に孫社長を訪ね、政界から転じビジネスのトップランナーをめざしたい旨を伝え、ソフトバンク社長室長への転進が決まった。

著者が入社した頃のソフトバンクは、営業利益が前年の254億円の赤字から623億円の黒字に転じたところだった。社長室長として著者は、ソフトバンクを「やんちゃなベンチャー企業」から「ちょっと大人のソフトバンク」に進化させるとともに、営業利益「1兆円クラブ」企業に至る道を支えてきた。

【必読ポイント!】携帯事業への参入と「光の道」構想

ケータイ三分の計
Fuse/Thinkstock

2006年3月17日、東京・汐留のコンラッドホテルにて、ボーダフォン日本法人をソフトバンクが買収、という記者会見を行われた。2010年代を見据え、モバイルインターネット時代の覇者となるために、ソフトバンクには携帯電話事業が必要だった。

2兆円近い資金が必要になるボーダフォン日本法人の買収は、思い切った意思決定である。ソフトバンクの社外役員に、ファーストリテイリングの柳井会長がいる。孫社長は飛躍を志向する一方で、柳井氏は「冷静で合理的な判断」を重視し、役員会でも牽制役として、孫社長と激しく討議することもあるという。そんな柳井氏が、ボーダフォン日本法人買収に関しては、「ボーダフォンを買えなかったときのリスクを考えるべきだ。これぐらいの値段で買っておいたほうがいい」と孫社長の尻をたたいたのだった。ここが勝負どころと見たのであろう。

情報通信産業界は正に『三国志』と言える状況にあった。強大な力を持つ順に、魏はNTT、呉はKDDI、豊富な人材と活力がある蜀はソフトバンクだろう。蜀の軍師となる諸葛孔明が蜀の皇帝になる劉備に提言した『天下三分の計』を参考にすれば、組むべき相手は呉の国、つまりはKDDIであり、共同でNTTに対抗していくという構想である。参考に2005年時点のシェアは、NTTドコモ53%、KDDI26%、ボーダフォン16%という状況。NTTとの差は歴然としていた。

買収のスキームはLBO、つまり買収先の資産を担保に負債を調達する形式だった。財務上のリスクが急激に高まったと見なされ、買収発表後にソフトバンクの株価は6割も暴落することになる。過去にもソフトバンクはヤフーへの投資を実行した際、ブロードバンド事業に投資した際にそれぞれ株が暴落し、その後実績を出すことで株式市場の評価を変えていった。孫社長は4年周期のオリンピックのようなもの、と会議で明るく話していたという。

4つのコミットメント

ボーダフォン日本法人買収後に生き残るための条件はシンプルで、「今いるお客様を維持する」ことに尽きた。2006年10月24日に導入が迫っていた「番号ポータビリティ(MNP)制度」、つまり携帯電話の加入者が別の事業者に切り替える際に電話番号を引き継げるという制度の導入後、利用者がどのような動きをするかが勝負を分ける。事前の予想では3位のボーダフォンの顧客が奪われると言われ、3分の1のお客様が他の事業者に乗り換えてしまうという調査結果もあった。

孫社長はこうした厳しい予想の中で、ボーダフォン社長に就任した。

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要約公開日 2015.04.03
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