インターネットにより、全てのものがつながる「ユビキタス」と、「フリクションフリー(摩擦やストレスのない経済)」が実現しようとしている。産業の垣根 がなくなりつつある要因は、M&Aやアウトソーシング、ビジネスモデルの多様化、法規制緩和などであるが、最大の要因はテクノロジーの進化だ。異なる業態の産業が重なった領域を占拠した企業がますます優勢になってきている。コンビニも金融機関も運営しているセブン&アイ・ホールディングスは、その一例だといえる。
「テクノロジーの進化」とは、インターネット空間とリアル空間の融合である。その代表例が「IoT(モノのインターネット)」であり、様々なモノをインターネットに接続することで、離れたモノの操作や状況把握がリアルタイムにできるようになる。
放送業界を例にとろう。かつてはCATV事業者がプラットフォームと伝送インフラを担っていたが、現在は、動画配信プラットフォームやインターネットの通信キャリアがその中心を担い、スマホでもテレビでも映像を受信できるようになった。ユーチューブなどの登場で、一般人が簡単に映像を配信できる時代が到来した。
テクノロジーの影響は、農業や住宅、ファッション、医療、教育などあらゆる分野に及ぶ。小売・飲食業界では、オンラインとオフラインを連動させた「O2O」がキーワードになっている。GPSを活用して、レストランの近くにいる人に対し、リアル店舗に誘導するような情報をリアルタイムで配信することができるのだ。
産業の垣根 の消滅とともに、台頭する新興企業とエスタブリッシュメント(既存企業)との間に新たな対立が生まれている。ビジネスモデルや業態が異なる企業が競合するケースも増えてきた。例えば、採用・転職支援の分野では、成約手数料を収入源とする既存のヘッドハンティングサービスと、人事部と世界の各分野の専門家をつなぐ、LinkedInのようなビジネス特化型SNSが競合関係にある。
決済サービスにおいても、「Squareリーダー」のようなクラウドPOSが、将来的には、高額な決済端末を必要とする専用POSの市場を侵食する可能性が高い。「Squareリーダー」があればスマホをクレジットカード決済端末にすることができ、個人的に取引した相手からクレジットカードで代金を支払ってもらえるようになるのだ。この仕組みの秘訣はクラウドの活用である。こうしたクラウドPOSの利用料は月数千円ほどの低価格で、個人や小規模店での導入が容易というメリットがある。
また、宿泊サービスにおいては、個人の空き部屋をネットで仲介するAirbnbが、ホテルの競争相手となっている。Airbnbには世界190カ国、約3万4000都市の60万室が登録されており、その客室数は巨大ホテルチェーンと同規模にまで成長している。
問題なのは、エスタブリッシュメントが、こうした将来像にきちんと対応してこなかった点なのである。
「産業 ボーダーレス時代」においては、自社、顧客、競合の「3C」が明確に定義できず、従来の戦略フレームワークが通用しなくなっている。中でも顧客の定義においては、ビジネスモデルや収益モデルの多様化により、顧客の範囲が複雑化している。例えば、ゲームアプリ業界では、無料ユーザーを満足させないと有料ユーザーになってくれないという状況のため、どちらが顧客なのかの判断が難しい。
また IT企業の間では、自分たちに足りない技術を補い、新分野に進出するために異業種の企業を買収する動きが活発化している。アマゾンは、ロボット物流システム会社のキバ・システムズや靴販売のザッポスを買収した。
新規事業参入のカギを握るのは、電子機器の受託生産を行うサービス「EMS」である。EMSにより、ソフトウェア企業やWEBサービス企業がハードウェア事業に容易に参入できるようになった。EMS企業のおかげで、自社に設計能力がなくても誰でも格安スマホを作れるようになった。格安スマホベンチャーは、設計・製造・販売を自社で抱え込んでいる大手企業とは違って、製品の企画やデザインに特化でき、非常に短期間で販売に漕ぎつけることができるのだ。
こうした激変する環境下で既存企業が生き残るためには、次の四つの課題に取り組まなくてはならない。
・自社の事業構造を変え、顧客を再定義するなどの「自己否定」を行う
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