大前研一ビジネスジャーナル No.4
大前研一ビジネスジャーナル No.4
「迫り来る危機をいかに乗り越えるか」
大前研一ビジネスジャーナル No.4
出版社
出版日
2015年03月20日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

増大し続ける日本の国債と、長期的には確実に減少する労働人口、そして原発停止の穴を高コスト発電により充当するエネルギー戦略の破綻。こうした危機をどう乗り越えていけばいいのだろうか?

本書は、グローバルな旬の情報をリアルタイムに知り、明日のビジネスにどう活かすかを考える場として最適な『大前研一ビジネスジャーナル』の第四号である。「次はどんなテーマがくるのか」と待ちわびていた読者も多いのではないだろうか。今回のメインテーマは、「世界・日本経済に迫り来る危機」と「日本のエネルギー問題」の二本立てである。前者では、低消費社会へと突き進む日本、現実味を帯びる財政危機、国民国家の定義の危機といった現状と予測を解説しながら、政府・企業・個人のレベルで危機に対応する方法を提言する。後者では、日本がエネルギー輸入への依存を脱し、安定した電力提供のための複合的エネルギーミックスを、エネルギー戦略の第一人者でもある大前氏が語る。大前流・課題解決のロードマップには、思わず「なるほど」と唸ってしまうだろう。長期展望を含むプランの描き方を学ぶうえでも、非常に有意義な一冊だといえる。

本書は経営者向けセミナーの内容をもとにしており、まるで大前氏の講義を受けているかのような臨場感も味わえる。世界各国の緻密な調査データに基づいた大前氏の華麗な分析を学べる本書は、スリリングで投資対効果の高い教材であることは間違いない。

ライター画像
松尾美里

著者

大前 研一
1943年、福岡県若松市(現北九州市若松区)生まれ。早稲田大学理工学部卒業。東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、 マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で博士号を取得。経営コンサルティング会社マッキンゼー&カンパニー日本社長、本社ディレクター、アジア太平洋地区会長等を歴任。94年退社。96~97年スタンフォード大学客員教授。 97年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院公共政策学部教授に就任。 現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長。オーストラリアのボンド大学の評議員(Trustee)兼教授。 また、起業家育成の第一人者として、05年4月にビジネス・ブレークスルー大学大学院を設立、学長に就任。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開学、学長に就任。02年9月に中国遼寧省および天津市の経済顧問に、また10年には重慶の経済顧問に就任。04年3月、韓国・梨花大学国際大学院名誉教授に就任。『新・国富論』、『新・大前研一レポート』等の著作で一貫して日本の改革を訴え続ける。著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    日本人がお金を使わないのは、将来の生活設計に対して悲観的だからだ。しかし今後は、資産の分散投資を行いつつ、ハイパーインフレ化による企業倒産に備え、「稼ぐ力」を高めていくことが必要になる。
  • 要点
    2
    地方都市が自前の産業を持って世界化し、経済的自立を保つ「イタリアモデル」は、日本の地方創生にとって非常に参考になる。日本はブランド力と価格設定能力を高めなくてはいけない。
  • 要点
    3
    福島第一原発の事故原因については「物理的な解明」が重要であり、原発再稼働に向けた責任ある組織づくりが不可欠である。

要約

【必読ポイント!】 世界・日本経済に迫り来る危機

危機に直面する「国民国家」

2014年は「国民国家とは何か」が問われた年だった。国民国家の定義は、明確な国境があること、統治のための憲法と統治機構が存在すること、自分を守る軍隊と自国の通貨を持っていることである。この定義に波紋を投げかけたのは、スコットランド独立を問う住民投票だった。独立は果たされなかったものの、自治権や徴税権などの大きな権限をイギリスから移譲された。これに触発され、スペインのカタルーニャや、デンマーク領のフェロー諸島、ハワイなどでも独立運動が盛り上がりを見せている。また、ウクライナでは新ロシア派と新欧米派の対立が続いており、世界は「地域国家」乱立の時代に向かっている。

最もセンセーショナルな形で国家の定義を問いかけたのは、「イスラム国」である。イスラム国は軍隊を持っているが、明確な国境も憲法もなく、適宜都合のいい通貨を使う。イスラム国にとって参考になるのは、パレスチナ自治政府がたどってきた歴史である。元々テロリストだったアラファトはPLO(パレスチナ解放機構)をつくり、長い努力の末、パレスチナは国連から「オブザーバー国家」として承認されるに至った。イスラム国も同様の道をたどるかもしれない。

アベノミクスの本質的な欠陥
ATIC12/iStock/Thinkstock

2014年の日本経済の状況を見ると、アベノミクスによる「実質GDPの2%持続成長」という安部政権の目標は実現からほど遠い。なぜ実体経済が成長しないのか。増税によって物価が上がったものの、実質賃金が下がり続けているためだ。また、安部首相は雇用が増えたと言うが、実際には正社員は減り、非正規社員だけが増え、高所得者と低所得者の二極化が進んでいる。さらには、円安により円の競争力が下がり、円安になっても、海外進出した日本企業は戻ってこないのが現状だ。

次に、アベノミクス「三本の矢」の効果を検証しよう。「金融緩和とインフレ目標という第一の矢については、低金利にもかかわらず預金が増え、一向に貸し出し増加につながっていない。第二の矢の「機動的な財政政策」も、投資効果が出ていない。技術労働者が不足しているため、いくら公共工事を増やしても、工賃や資材の高騰を招いてしまう。そして、第三の矢の「民間投資を喚起する成長戦略」は、バラマキ政策にすぎない。地方創生や女性の社会進出という政策を掲げているが、具体的な中身は語られていない。そして、成長戦略の効果発現には10年、15年の年月がかかるにもかかわらず、首相や日本のエコノミストから、長期的な視点が抜け落ちている。20世紀の市場を支配していた経済学が通用しない今の日本において、アベノミクスはことごとく空振りしている。

低欲望社会・日本の危機
RomoloTavani/iStock/Thinkstock

日本の企業や家計は潤沢な資産を保有しているのにお金を使わず、低金利でもお金を借りない。著者はこの状況を「低欲望社会」と名付けた。なぜお金を使わないのか。その理由は、日本人が将来の生活設計に対して悲観的だからだ。老後の不安から、将来への備えとして貯蓄に力を入れるのである。特に30代の人たちは、10代の頃から長期不況に身を置いてきたため、「お金を使おう」という気持ちが萎縮しているのである。

また、日本の経営者の多くは投資への欲望を失っており、目先の利益を追いかけてしまっている

政府・企業・個人がすべきこと

2015年、政府・企業・個人がすべきことをいくつか取り上げてみよう。

まず、政治は新しい国家構成の単位として「道州制」を導入すべきである。

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要約公開日 2015.07.13
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