企業の変革において一番必要なものはビジョンである。これまでの成長パターンの延長線上で考えていては、さらなる発展は望めない。会社の現状から離れて、将来はこんな会社になっていたいと考えると新しい発想が生まれてくる。そこから現在を振り返り、今、何をすべきかを考察するほうが、変革はより容易になるはずだ。生産拠点と資本の国際化が進む中で、日本企業が生き残るには、異質なことへチャレンジし、世界のエクセレント・カンパニーを目指す必要がある。
第一のネックになるのが日本人優先、年功序列、終身雇用といった人事制度である。また、事実上の閉鎖経済を取っている現在の日本における価値観は普遍性に乏しいという問題がある。そして究極的には、企業体質を転換しない限り、新たなビジョンに到達できない。すべての企業が第三次産業化し、ユーザー・オリエンテッドなサービスになっていく時代においては、コストダウンや大量生産に強みを発揮してきた日本的企業文化は、自己変革のプロセスの足かせとなってしまうのだ。
エクセレント・カンパニーといえども、適応能力の限界をこえる外部環境の変化の波に飲み込まれる場合がある。大きな変化に対処するには、抜本的に異なる経営スタイルへと移行しなくてはいけない。経営変革を成功させる鍵は次の六つである。
第一の鍵は、トップリーダーが変革の必要性を深く認識し、ことあるごとに変革のビジョンを社員に語りかける「変革の体現者」になることである。経営変革には短くとも一~二年、長ければ五年以上の歳月を要する。変革が頓挫する危機に瀕したときこそ、トップが変革へのコミットメントを貫き通すことが不可欠だ。
第二の鍵は、主要管理職をメンバーとする変革推進チームの編成にある。変革を速やかに達成するには、変革のボトルネックを早期に識別・除去しうる立場にある人々を、変革当初から巻き込んでおく必要があるのだ。トップリーダーは、変革推進の要となる部署の優秀な人材を選抜してチームを編成すべきである。適宜、権限を委譲し、変革プロセスを忍耐強く見守る目を持たねばならない。
第三の鍵は、変革推進チームが変革のビジョンにコミットし、「変革リーダー」となることである。変革ビジョンを具現化するシナリオ作りや、問題点の抽出、分析、解決策の模索と、メンバー間での合意形成といった不断の努力を経て、自社の状況を広い視野から眺められるようになり、結果として変革リーダーとして幅広い信任が得られるようになるのだ。
第四の鍵は、変革リーダーを変革遂行上の要職に配置することである。変革のシナリオを実行するには、変革リーダーには、社内政治の枠を超えた権限が必要になる。
第五の鍵は、変革リーダーが変革遂行のための管理スタイルを体得することにある。具体的には、変革ビジョンの浸透と問題の吸い上げのために活発でフランクなコミュニケーションをとること、リスクや失敗の許容、変革達成への忍耐などである。
第六の鍵は、組織全員の行動様式を変革し、新ビジョンや新戦略実施に不可欠な企業スキルを構築することである。今日の競合優位性とは、戦略実行に要する企業スキルを他社よりも早く、より高いレベルで獲得することであるといえる。だからこそ、戦略とリンクした具体的に必要なスキルを明確化することが非常に重要なのである。
来るべき「ボーダレス化」に、日本企業はどう対処すべきだろうか。
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