「広報」は「パブリックリレーションズ」の日本語訳で、企業が社会と良好なつながりをつくることだ。この場合の「社会」はステークホルダーで構成されている。ステークホルダーとは、一般に、株主、従業員、取引先、顧客、地域社会のことである。利害の異なる彼らと関係を構築することで、新規事業の立ち上げは容易になり、予想していなかったトラブルを迅速に収束させることが可能になる。このように、広報とは企業活動の土台の役割を果たすのである。
つまり、広報が目指すべきゴールは「より良い経営環境を構築すること」である。そして、そのためには経営戦略を補助する、明確で中長期的な広報戦略が必要となる。自社の記事に一喜一憂するような、その場その場の広報活動では、意味がない。
理想的な広報活動では、誰が大切なステークホルダーなのかを見定め、自社の経営戦略から導き出される事業戦略や市場戦略をその人たちに正しく理解してもらい、賛同してもらうというコミュニケーションを行なうことになる。また一方で、社会の変化を察知し、自社がどのように見られているかを分析し、経営にフィードバックするという活動も広報の役割である。
さらに、広報戦略を持った上で、自社の広報力を分析し、強化すべき点について地道に取り組むことが、役割を果たすことにもつながっていく。
企業広報戦略研究所では、2014年、日本国内の上場企業を対象とし、アンケート項目に回答してもらうことで企業の広報力調査を実施した。調査対象企業を16の業種に分けた上で、広報活動に必要な8つの視点から各社の広報力を評価した。
8つの広報力を簡単に紹介しよう。
(1)情報収集力:自社の評判などの広報環境を把握する
(2)情報分析力:課題を洞察して組織内で共有する
(3)戦略構築力:戦略を構築して組織的に実行する
(4)情報創造力:メディア特性に合わせて相手に伝わるメッセージを開発する
(5)情報発信力:さまざまな情報発信手法をタイムリーに駆使する
(6)関係構築力:ステークホルダーとの信頼関係を恒常的に深める
(7)危機管理力:リスクの予測・予防や緊急事態に対応する
(8)広報組織力:経営活動と広報活動を一体化する
広報活動のフェーズという観点からは、(1)~(4)が外部に働きかける前の準備フェーズ、(5)(6)が伝えたい相手にメッセージを伝えるアウトリーチフェーズ、(7)(8)がそれを下支えする構造といった位置づけである。
日本企業は、全体として、「情報発信力」が高い傾向にある。しかし、ほかの広報力は「情報発信力」とは大きな開きがあるようだ。
業種別にみると、全体的に高い広報力を持つ「電力・ガス」「金融・証券・保険」「食料品」業界では、「情報発信力」以外の「情報収集力」や「危機管理力」のスコアも高い。近年、この業種は災害や事故、トラブルへの社会的な対応が求められてきたことが、結果として広報力向上につながったのではないかと考えられる。
「情報発信力」以外の広報力で、日本企業が特に弱いのが「戦略構築力」、「情報創造力」、「関係構築力」、「危機管理力」の4つだ。
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