90年代後半にフジテレビで『笑う犬の生活―YARANEVA!!(笑う犬)』というコント番組をつくっていた吉田氏は、番組の成功の裏で、やりきれない虚しさを感じていた。どんなに心血を注いでヒット番組をつくっても、放送が終了すればすぐに忘れられてしまうからだ。
ところが『笑う犬』が、十数年の時を経て、海外で人気を博しているという。日本の視聴者の反応だけを考えてつくった番組が、意外にも外国人にウケている理由は何か。一つは、人間の弱さや社会の不条理といった普遍的なテーマが、番組のベースにあるからである。もう一つは、半端ではない熱量が番組に込められているからである。制作に費やす時間や予算、「どうしてもこれを伝えたい」という高い志や情熱が、良い意味で過剰に投入されていれば、その異常さが作品の熱量になるのだ。
クールジャパンのヒントもここにあると著者は考えている。最初から「世界標準ありき」でつくられたものは、どの国からも受け入れられない。これはテレビだけでなく、映画や音楽などのコンテンツにもあてはまるだろう。
テレビのプレゼンスが下降している最大の原因は、つくり手のエネルギーの枯渇である。新しいことへの挑戦意欲に満ちたコンテンツを生み出そうとしているのは、若者にとっては、LINEやユーチューブといったネットの世界なのではないかとさえ思われる。
テレビ・放送業界は、視聴者の意識の変化や視聴環境の変化に対応できていない。今後は、スマートフォンなどの移動中の視聴が中心となってくる。テレビ制作の現場は、それを念頭に、企画の立て方や演出論も含めて考察することが重要だ。
スマートフォンでもパソコンでも動画を楽しめる今、テレビは特権的なプラットフォームではなくなりつつある。しかし、テレビ業界のコンテンツ制作能力は、いまだに他のメディアの追随を許さない高いレベルにある。テレビというプラットフォームを超えたコンテンツメーカーを目指すことで、テレビは生き残っていくはずだ。同時に、テレビのプロデューサーには、ユーチューブ、ツイッター、SNSといったネットの世界から映画、新聞、雑誌などの旧来のメディアまで、横断的に取り込み融合させていく能力やスキルが求められるだろう。
日本を代表するネット企業になったサイバーエージェントを率いる藤田晋氏によると、今後のインターネットビジネスを成功させるポイントは次の三つである。
一つは、社内に企画、技術、デザインができるチームをつくり、一体となって内製で開発することである。インターネットのサービスを外注すると、たいてい失敗する。社内制作ならユーザーの反響を見ながらシステムを柔軟に変更することができ、問題が起きてもすぐに対処できる。
プロデューサーは、新サービスの開発や既存サービスの改善などによって、ページビューを増やすことが求められる。エンジニアには、サクサク動き、回遊ユーザーを集めるよう設計されたシステムを構築できる力が必要だ。そして、デザイナーは、見やすくて使いやすい、人をワクワクさせるデザインをつくることが重要である。
二つ目のポイントは、スタッフの創造性や感性を高めて、アイデアがどんどん出てくる組織をつくることである。
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