「逆境であれ、順境であれ、その与えられた境涯に素直に生きることである。謙虚の心を忘れぬことである」
自分の力で運命を切り開くには、松下幸之助さんが言うように、まず、素直に境遇を受け入れることだ。自分は「今」しかコントロールできない。「過去」は変えられない。他人を変えることもできない。自分を変えるしかないのだ。
その大前提は、今の自分や自分の置かれている境遇を素直に受け入れることであり、「逆境であれ、順境であれ、その与えられた境涯に素直に生きること」が何よりも大切なのである。放っておくと逆境は卑屈を、順境はうぬぼれを生む。運命を素直に受け入れた上で、逆境にあったら卑屈にならず、順境だったらうぬぼれないようにする。いつも素直に自分の運命と向き合いながら、それに前向きに対応していく心構えが大切だ。
しかし、これを実践するのは難しい。人生にはいろんなことが起こるからだ。「朝起きると『今日も素直な心を持ってやらなあかん』と思い、夜になると『今日は素直に過ごせたかどうか』と反省した」と幸之助さんも言っている。おそらく、素直ではないことで苦労もされたのだろう。素直であることを願い続け、反省し続けたからこそ、「素直」さを手に入れることができ、それに前向きに対応することで大成功されたのではないかと思う。
「まず好きになれ。いやいや仕事を続けるよりも、いっそ開き直って、楽しむほうが仕事もはかどる」
幸之助さんは、「仕事にどっぷり浸かる」ことの大切さをよく説いている。懸命に仕事に浸かって自分の道を歩んでいれば、どんな苦境が訪れても必ず先に繋がることを見つけ出せるはずだ。うまくいかない人の大半は、浸かり方が足りないのだ。
仕事のできない人は、決まって中途半端だ。やると決めたら浸かりきらないと成功しない。逆に、それぐらい覚悟を決めてやれば、大抵のことはうまくいく。どんなに不可能に見える場面でも、どっぷり浸かってやっている人は、解決の糸口を見いだすものである。
「私は、いつの場面でもきわめて真剣でした。ほめるのも叱るのもとにかく真剣で、自分をそのままさらけ出していました」
仕事や客に対して真剣で熱心であれば、激しく叱らなければならないことも少なくない。相手にも真剣に対している人は、本気で怒れるのだ。怒りや感情をコントロールすることが、成熟した大人であるような風潮があるが、「明治の元勲はよく人前でも泣いた」と東洋哲学の大家・安岡正篤の本にもある。怒るべきときに怒り、毅然と間違いを正すのが本当の成熟であろう。
幸之助さんが怒ると、大の大人が倒れてしまうほどの怖さだったという。昭和25年の経営方針発表会でも、「時には皆さんの行動について激しく批判することもあるかもしれない。激烈な態度、真剣さが姿かたちに表れないと何事も立派に成し遂げることはできない」と述べている。
人徳も地位も高い人が怒ったのであるから、怖かっただろうし、効果もあっただろう。ただ、フォローも忘れず、ひどく叱った部下が帰った後、幸之助さんは、「自殺せーへんかどうか心配やから、後をつけて見てきてくれ」と、別の部下に依頼したこともあったという。
「いっさいの責任は我にあり」
経営者は、会社は世の中の公器だと思わないといけない。
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