人生で成功するには、IQテストや学力検査によって測定される認知スキルだけでなく、肉体的・精神的健康、忍耐力、協調性、意欲、自信、計画力などの社会的・情動的性質である非認知スキルも欠かせない。この2つのスキルは、幼少期に発達し、その発達は家庭環境によって大きく左右される。
アメリカでは家庭環境が悪化している。過去30年の間、特に男性の高校卒業率の低下が著しい。また、スキルのない移民が流入することにより、アメリカでは低スキルの人々が増加した。現に、アメリカの労働者の20%以上の人が、医者の処方箋に書かれた指示を理解する基本的能力を持っていないとされている。どうすれば現状を改善できるのだろうか。
著者は、幼少期の介入に力を注ぐ公共政策によって、こうした課題を改善することができると主張している。現在のアメリカの公教育は、認知能力を測定するテストの結果を重視している。しかし、社会性・情動に関する非認知能力も、賃金や就労、労働経験年数、大学進学、十代の妊娠、犯罪率などに大きく影響する。それを証明するために、著者は就学前プロジェクトのデータを用いて議論を展開している。
著者の研究によると、子供の認知的到達度(大学へ進学するかどうかの予測因子)も、社会性・情動のスキルも、早期に格差が生まれ、長年にわたって継続する。つまり、こうしたスキルの向上は、幼少期の家庭環境に大きく左右されるのだ。
アメリカでは、子供が貧困家庭に生まれる確率が以前よりも高くなっている。ひとり親家庭で育つ子供の割合が劇的に増加しているためだ。恵まれない環境で生まれ育つ子供は、中流階級以上の子供が受けるような豊かな幼児教育を受けられない。
高学歴女性を母親に持つ子供と、低学歴女性を母親に持つ子供との間に、環境格差が生じている。ある調査によると、大卒の母親は、低学歴な母親と比較すると、結婚も出産も比較的遅く、安定した結婚生活を営んでいるケースが多い。就労率ははるかに高く、収入も安定していて、子供の数も少ない。また、大卒の母親は育児にも多くの時間を割き、読み聞かせなどの情操教育にも熱心な傾向にある。
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