道端の経営学

戦略は弱者に学べ
未読
道端の経営学
出版社
ヴィレッジブックス
出版日
2015年02月28日
評点
総合
4.2
明瞭性
4.5
革新性
3.5
応用性
4.5
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おすすめポイント

本書は経済学者でビジネススクールの教授でもある3人が旅に出て、アメリカの町をあちこち車でまわり、面白そうな店や企業を訪れては、スモールビジネスが抱える興味深い戦略的課題に触れる内容となっている。著者である3人の人間味溢れる会話は去ることながら、小さな企業の経営者の人柄なども含みながら解説されており、現場での課題に現実味が加わる事により問題の本質が見えやすい。

巻末にある解説では、本書は独自の概念や論理を提示するのではなく、一般的な経済の本質を豊かな文脈に絡めて伝授することが著者の明確な意図であることが述べられている。通常の経営書やビジネス雑誌に掲載されているような大それたことではなく、ごくごく普通の人が営む普通の店や企業で起こりうる問題を取り上げることにより、商売の本来の姿を見直すことができる一冊だ。

掲載されているのは全て中小企業の事例だが、顧客相手に商売をしている会社に属している人であれば、ニーズの追求や顧客満足度の向上、社内での人事のあり方など、学べることは沢山あるだろう。「経営学」という言葉に一歩退いてしまうかもしれないが、難しい言葉が並び、計算式なども登場する難しい経済書とは違い、本書はストーリー仕立てになっており読み進めやすい。幅広い年齢層、職種の方にオススメの一冊である。

著者

マイケル・マッツェオ Michael Mazzeo
ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院准教授。MBAコースで事業戦略を教えている。スタンフォード大学で経済学博士号を取得。10歳の息子(とたくさんのレゴ・ブロック)とともにシカゴに住んでいる。この旅ではインタビューの録音と予約を担当。ニューヨーク・ヤンキースの大ファン。

ポール・オイヤー Paul Oyer
スタンフォード大学経営大学院教授。イェール大学でMBA、プリンストン大学で経済学博士号を取得。著書に『経済学に必要な知恵はすべてオンライン・デートで学んだ(Everything I ever Needed to Know About Economics I learned from Online Dating)』。2人の子どもたちとカリフォルニア州スタンフォードに暮らす。旅の道案内と写真撮影を担当。ニューヨーク・メッツのファンだが、たまにオークランド・アスレチックスに浮気する。

スコット・シェーファー Scott Schaefer
ユタ大学デイヴィッド・エクルズ経営大学院教授。スタンフォード大学経営大学院で経営学博士号取得。共著に『戦略の経済学(Economics of Strategy)』がある。ソルトレイクシティで2人の子どもたちと暮らしている。本書の旅のドライバー。シカゴ・ホワイトソックスの大ファン。

監訳者
楠木 建 くすのき・けん
1964年東京都目黒区生まれ。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。専攻は競争戦略。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。著書に『「好き嫌い」と経営』『戦略読書日記』『経営センスの論理』『ストーリーとしての競争戦略:優れた戦略の条件』などがある。趣味は音楽(聴く、演奏する、踊る)。

訳者
江口 泰子 えぐち・たいこ
法政大学法学部卒。編集事務所、広告企画会社を経て翻訳業に従事。主な訳書にハトソン『なぜ、これを「信じる」とうまくいくのか』、カーン『マイレージ、マイライフ』、マクブライド『毒になる母親』、サマーズ『考えてるつもり』、オライリー『ケネディ暗殺 50年目の真実』、ラムズフェルド『真珠湾からバクダッドへ』(共著)など。

本書の要点

  • 要点
    1
    ビジネスが抱える戦略的課題には、企業や店の規模は関係がない。大企業が抱える課題や取り組む戦略は、小さな店や企業にとっても有効である。また、スモールビジネスから学ぶ新しい知恵や発見も多くある。
  • 要点
    2
    経営には共通する「法則」はなく、全てにおいて「場合によりけり」である。問題の本質を理解し、「何によりけりか」を見極め、正しい意思決定をすることが最も重要である。
  • 要点
    3
    戦略とは決して解決しない課題である。めまぐるしく変化するビジネス環境のなかで、時代にマッチした戦略を絶えず模索する必要がある。

要約

事業規模の拡大

規模の経済(スケールメリット)を活かして、事業拡大を図る
©iStock/shironosov

ブレイシズ・バイ・バリスは矯正歯科、いわゆる永久歯の歯並びを整える矯正治療専門のクリニックである。ここ数年、新しい町で開業したり、引退する矯正歯科医院から医院を買い取り事業を拡大して、現在は11の都市でクリニックを展開している。

3人が訪れたオフィスが起点となる本拠地であり、各地域での一切の活動を調整する管理オフィスとしてハブ機能を担っている。比較的小さな町に進出しているため、医院を毎日開ける必要はない。1人の矯正歯科医にアシスタント2人、受付係1人がチームとなり交代制で出張する。本拠地である管理オフィスは、会計業務・IT・人事・請求と支払い業務に、コールセンターも兼ねている。ハブ機能の存分な活用により、利益拡大の第一原理である「規模の経済(スケールメリット)」をうまく利用している。生産量が増大して、生産物1個あたりの費用(平均費用)が安くなるとき、「規模の経済が働く」といわれている。

つまり、ブレイシズ・バイ・バリスの場合、医院の管理をオフィスで一手に担うことにより、生産量の増減に関係なく生じる費用である固定費(賃貸料や設備費、人件費など)を低く抑えることができ、効率的に事業を拡大できている。一方で、矯正治療に要する治療器具などを管理オフィスで一元管理することは、在庫の費用効率を上げ、生産量の増減に伴って変動する費用である変動費(材料費)のムダを省くことにつながっている。固定費に対して変動費が低く抑えられた場合に、規模の経済が働く。生産量が増加しても、総固定費が一定であれば、製品一個あたりにかかる固定費を減らせるからだ。

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要約公開日 2015.10.19
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