本書は、親中派だったが中国の軍事戦略研究の第一人者となり、親中派と決別した著者が、世界の覇者をめざす中国の長期的な戦略に警鐘を鳴らす一冊である。
これまでアメリカは、中国を帝国主義の気の毒な犠牲者と見なし、中国は平和的に台頭すると信じて疑わなかった。「脆弱な中国を助けてやれば、中国はやがて民主的で平和的な大国となる。世界支配を目論むことなどない」。しかし、中国が秘密裏に進めている戦略は、それを真っ向から否定するものだった。
古代中国の『兵法三十六計』には「瞞天過海(まんてんかかい)」という格言がある。「自分より強い敵を、相手の力を利用し、戦いに巻き込まれていることさえ気づかせないまま倒す」という意味だ。中国のタカ派(強硬なナショナリスト)を中心に打ち立てられた現代の戦略は、こうした古代の教えに基づいている。
ところが、それを知る外国人は最近までほぼ皆無に等しかった。1971年にニクソン大統領が中国との国交回復に向けて動き始めて以来、数十年間、中国の発展を支えるべきだという政策が維持されてきた。中国との建設的な関係をめざす考えは、アメリカの政治・経済の中枢に根強く存在し、著者自身も技術・軍事の両面で中国を援助するよう、民主・共和の両党に促してきた。
アメリカは中国のタカ派の影響力を過小評価し、危険なまでに間違った仮説に立っていたのだ。間違った仮説とは、「貿易や技術供与によって中国の発展を後押しすれば、中国が協力的になり、自由を重んじる民主主義に移行するはず」というものだ。しかし現実には、中国はスーダンや北朝鮮の反欧米政府にライフラインを提供し、ことごとくアメリカ政府の行動を妨げてきた。そのうえ、中国国内では共産党の政策を批判することは許されておらず、民主的な選挙を行うこととはほど遠い。
また、アメリカは中国が深刻な経済・政治危機に瀕していると信じていた。ところが実際の中国は、GDPで年7~8%の成長を続けており、早ければ2018年にアメリカのGDPを追い抜くと、国際通貨基金などの経済学者は予測している。
著者は1990年代後半、国防総省とCIAから、中国のアメリカを欺く能力と、それに該当する行動を調査するよう命じられた。そこで、中国が隠してきた驚くべき事実が次々と白日の下に晒された。
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