著者は、「利他経営企業」「人本経営企業」「幸せ追求経営企業」を1社でも増やすことを目的に、本シリーズを執筆している。本シリーズ出版を機に、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞という表彰制度がスタートした。そして2014年9月、この運動を広めるために「人を大切にする経営学会」が設立され、経営者をはじめ、約600名の様々な立場の方が参加しているという。
本シリーズは中国や台湾、韓国でも翻訳され、感銘を受けた中国人の読者から、「先生のもとで真の経営学を学びたい」というメールが著者のもとに届いたという。著者たちの尽力の末、彼女は日本の入管法や中国の法律などのハードルを乗り越え、無事に試験に合格し、現在、著者の研究室で経営学を学んでいる。このように、「人を大切にする経営」は国境を越えて人々の共感を呼び続けるのだ。
株式会社クラロンは、昭和31年に故・田中善六氏と、現会長である妻の須美子氏によって設立された、福島県の運動着メーカーである。平成27年には「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞を受賞している。その推薦理由は、高齢者や女性、障がい者を経営に見事に活かしきっている会社だからだ。
クラロンには135名の従業員がおり、従業員は定年後も希望があれば正社員として雇用され続け、現に70歳以上の従業員が3人いるという。また従業員のうち100名は女性であり、18名の管理職のうち女性が10名を占めている。
障がい者の法定雇用率も35.5%にのぼる。社会福祉法人ではない株式会社で、これだけの雇用率を持つ会社は非常に珍しい。障がい者の平均勤続年数27年というのは稀有な数字である。この高い定着率は、田中夫婦の障がい者に対する思いの強さの表れである。障害を持っていても作業ができるよう、作業の工程を細分化するなどの工夫が奏功している。そのうえ、障害を持つ従業員一人一人の得意なことや興味にあった適材適所を実践しているのがクラロンの特徴だ。
少子高齢化が進む現在、高齢者や女性、障がい者という新しい主役の能力を最大限発揮させるクラロンは、注目すべき会社だと著者は考えている。
善六氏がクラロンを創業後、初めて障がい者を雇ったのは昭和43年のことである。養護学校の先生が、知的障害のある少女を雇ってほしいと何度も頭を下げた。善六氏は知的障害や精神障害のある人に仕事をさせるのは難しいのではないかと思ったが、悩んだ末、彼女を引き受けることにし、つきっきりで仕事を教えた。実際には想像以上の難しさだったという。
しかし、ある日何気なく善六氏が「上手にできるようになったね」と声をかけたところ、普段は反応さえ鈍かった少女が、まぶしい笑顔を浮かべて「はい」と答えたのだ。
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