2005年6月12日、アップル社のCEOを務めていたスティーブ・ジョブズは、スタンフォード大学の卒業式で、「ハングリーであれ、常識外れであれ(stay hungry, stay foolish)」という有名な演説を行った。
ジョブズの演説に代表されるように、今日、世界では、イノベーションは研究開発に多額のお金をかけることではなく、常識を変えるようなキープレーヤーの能力によって成し遂げられると考えられている。
だが、本当にそれだけだろうか。個人の能力が成功のために重要であることは間違いないが、iPhoneが成功する上で、国家は何の役割も果たさなかったのか。答えは「否」である。国が莫大な投資を行い、インターネットやGPS(全地球測位システム)、タッチスクリーンディスプレー、情報通信技術などの土台作りをしたからこそ、アップル社はその革命的技術革新の波に乗ることができたのだ。
iPodやiPhone、iPadなどの人気製品を世に送り出すことで、アップル社は携帯用コンピューターや通信機器の業界地図を塗り替え、わずか10年弱で、世界最大級の資産を有する企業に成長した。
ところが、アップル社の製品に搭載されているコア技術が、何十年もの間、アメリカ政府や軍が支援を続けたことによって実現したものばかりであることは、あまり知られていない。
2011年以降、iOSを搭載した製品群の販売量が爆発的に増えていく状況下にあって、アップル社の総売り上げに対する研究開発費の割合は持続的に減少している。つまりアップル社は、新しい技術や部品の開発に予算と時間を割くのではなく、既に存在する技術を巧妙に組み合わせ、斬新なデザインに搭載して販売することに資源を集中したのだ。これはアップル社のみならず、他のスマートフォンメーカーにも共通の手法である。
たとえば、液晶ディスプレイの表面に指を触れることで操作ができるタッチパネル(スクリーン)技術は、アップル社製品に組み込まれた最も重要な技術の一つだ。この技術は、アメリカ
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