コカ・コーラ社のデザイン戦略を辿る前に、デザインのもつ力を示す事例を見てみよう。日本コカ・コーラ社の近年のヒット作といえば、飲料水の「い・ろ・は・す」である。同社では「い・ろ・は・す」の前にも「ミナクア」という飲料水を展開していたが、だんだんと売上が停滞するようになっていた。調査の結果、残念ながら、価格やチャネル、広告、製品自体に至るまですべてに問題があることがわかった。これらを一気に解決するには、デザインの力が必要だと著者は考えた。
デザインと聞くと、製品の見た目や形の美しさのことをイメージしてしまうかもしれない。しかしここでいう「デザイン」は、個人の主観に左右される「アート」とは異なっている。デザインとは、問題解決のために意図的に構成された、様々な要素の結びつきのことだ。優れたアートはときに人々の理解を超えるが、優れたデザインは、だれにとってもわかりやすく、役に立つものでなくてはならない。
このとき彼らは、デザインによって「リサイクル」の問題を解決することにした。日本国民は環境への意識が高く、リサイクルは生活の一部になっているのに、「ミナクア」のボトルは潰しにくく、また東京の狭い家では、ゴミ収集日まで家に溜めておくにはかさばりすぎてしまう。そこで同社は、軽くて簡単に押し潰せるペットボトルを開発した。小さく潰せるのでゴミ箱をいっぱいにしてしまうこともないし、バリバリと押しつぶす感触も楽しい。また、これにより製造過程の二酸化炭素排出量も抑えられる。
このコンセプトを明確に伝えるため、広告では「おいしく飲み、しぼって、リサイクルする」というメッセージを発信した。「い・ろ・は・す」という商品名も、健康と環境を志向する「LOHAS」からつけられている。デザインにより、目に見えるペットボトルが、目に見えない環境志向のイメージを想起させるというシステムが生み出されたのだ。すべてが有機的に結びついたこの商品は、消費者にリサイクルの楽しさと大切さを伝え、売上と、リサイクル率をともに増大させることに成功した。
環境問題や自然災害のような「厄介な問題」は複雑で、一企業がすっきり解決することはとてもできないが、一方で、決して避けては通れない課題である。優れたデザインは、こうした世界規模の問題を解決する一助ともなる。
「い・ろ・は・す」の例は、我々がまず「どこから始めるか」を決めなくてはならないことを教えてくれる。これを裏付けるのが、サイモン・シネックがTEDトークで紹介した「ゴールデンサークル」である。
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