「伝える仕事」に携わる人にとって、絶望的な時代が到来した。雑誌「WIRED」によると、2010年の1年間で、世界中の砂浜の砂の数と同じ1ゼタバイトの情報が流れたという。つまり、送り手が伝えたい情報は、生活者にとってたった「砂の一粒」の重みでしかないのだ。これを「情報『砂の一粒』時代(砂一時代)」と著者は名づけた。
これまで広告は、少しでも目立ってターゲットに見てもらおうという一心でつくられてきた。しかし、このような状況下で広告を見てもらうのはもはや奇跡的なのである。
たとえ生活者に見てもらえても、一時的にSNSでバズったとしても、すぐに記憶の彼方に消えてしまう。今の生活者は、次々と流れてくる新しい情報を処理するため、過去の情報をすぐに削除するか、上書きしてしまうからだ。例えば、ソチ・オリンピックの浅田真央選手のスケーティングに感動した人は多いはずだが、日本中を熱狂させた「強烈なコンテンツ」でさえ、忘れられているはずだ。これが今後のプランニングのスタート地点なのである。
2010年、SNSの普及により、友人知人の近況や意見、興味という「仲間ごと」が急増し、人々の耳目を占拠し始めた。さらには、商品やサービスが溢れかえっている超成熟市場や、メディアやツールの激増、そして生活者の日常に世界中から届く面白いコンテンツがライバルとなる「エンタメ過剰」が、情報が生活者に伝わらない状況に拍車をかけている。
広告や宣伝、販促などの「伝える仕事」のゴールは、情報を必要とする生活者に伝えて、相手を喜ばすこと、笑顔にすることである。そのスタート地点は、「伝えたい相手を知ること」だ。
注意すべき点は、ネットを日常的に使っていない層が意外とたくさんいるということである。2014年の時点で、ネットを毎日は利用していない人が約5670万人、検索を日常的に利用していない人が約6000~7000万人、そしてソーシャルメディアを利用していない人が約7000万人いると推定される。つまり、国民の約半分がネット上の爆発的な情報量の増加を経験していない、「砂一時代以前の生活者」なのである。よって、いくらネット施策を行っても、彼らに伝わっている手応えがないのは当然だ。一方、彼らはマスメディアにはよく触れている。
プランニングにおいては、情報が多すぎて「伝える」ことが絶望的な「砂一時代の生活者」と、テレビCMなどの情報をまだ受け取ってくれる「砂一時代以前の生活者」を切り分けて、それぞれに最適な方法を提案することが重要である。
では、砂一時代の生活者に情報を届け、彼らを笑顔にするにはどうしたらいいのか。その唯一の解は、最強のメディアである「友人知人を介す」ことだ。その理由は次のようなものである。
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