著者は、アディダス ジャパンからソニー・ピクチャーズ エンタテインメント(SPE)に移籍後、マイケル・ジャクソンの『THIS IS IT』のDVD販売を手掛けることになった。最後のツアー準備の様子を収めたという映像の価値を踏まえ、「日本で100万枚は売れる」と宣言した。この数字は、SPE日本法人の幹部たちが導き出した「多くて35万枚」という数字をはるかに上回っていた。35万枚とは、大手レンタルショップや販売店、レコード店での売上予想を足した数字である。幹部たちは「伊藤さんは何もわかっていない」と猛反発した。
この反論に火がついた著者は、これまでにない販売チャネルを開拓し、新たな客層にアプローチすべきと睨んだ。そこで、映画の中でダンサーたちがスポーツウェアを着ていたことに着目し、アディダスジャパンでの営業経験を活かして、スポーツ用品店でDVDを販売し始めた。スポーツ用品店にも、新たな客層を得られるというメリットがあった。
その結果、DVD販売総数は200万枚を超え、今なお売れ続けている。これが「よそ者」の戦い方だ。
長年その業界にいて得た常識や経験則は、刻一刻と変化し続ける環境に対応しきれていないのが現状である。
著者がCEOを務めるハイアールアジア株式会社が扱うAQUAブランドでは、家電業界の常識からはずれた、荒唐無稽とも思われる製品を開発してきた。
著者は、その道の人に話を聞くときは、あくまで一つの見方ととらえることが必要だと言う。例えば、「なぜ透明の洗濯機がないのか」とベテラン技術者に聞いたとしたら、「汚いものは見たくない、というのがユーザーの心理だ」と答えるだろう。しかし、本当にそうだろうか。ダイソンの掃除機が売れているのは、「こんなにゴミがとれた」と一目でわかるのがユーザーに好評だからである。それならば、洗濯機も汚れの落ち具合が見える方が良いのではないか。そんな発想から開発されたのが、世界初のスケルトン洗濯機「クリア」である。
話を聞くべき相手は、その業界と無関係な、普通の素人である。正直で、生活感覚に根差した意見にこそ、ビジネスのヒントが詰まっている。
「よそ者」が異なる業界で実践すべきことは、「ビッグピクチャー」を描くことである。
3,400冊以上の要約が楽しめる