従来ビジネスにおいては、大量のデータを用いて量的分析をし、直線的なアプローチで問題解決を図る「デフォルト思考」が主流だった。ブレインストーミングやデザイン思考、ビッグデータなどのビジネスツールがこれに当たる。いずれも、システムの生産性向上を必要とする経営課題に対しては、非常に有効なアプローチだった。
しかしこれだけでは、人の行動に関わる問題を扱うには不十分だと著者は言う。それは、「デフォルト思考」では、人間を正しく理解することはできないからだ。
これまで人間は、「予測可能で合理的な意思決定者」だとされてきた。消費者は自分の好みをわかっており、客観的で、十分に比較検討したうえで商品を選ぶのだという考え方だ。しかし実際にはそうではない。近年主流になってきた行動経済学という学問が示す通り、人間は不合理で、衝動的で、自分自身でも理由がよくわからないまま買い物をするのである。
このように不確定要素の大きい人間を理解するためには、従来のビジネスツールよりも、むしろ今まで人文科学の世界で使われてきた問題解決法のほうが適している。そのひとつが、「仮説形成的推論」と呼ばれるものである。
これまでの仮説主導型の問題解決アプローチでは、まず仮説を立て、手元のデータをもとに、その仮説が正しいかどうか演繹的に結論を出していた。この方法では、仮説の正誤はわかっても、そもそもの問題設定自体が正しいかどうかはわからなかった。
「仮説形成的推論」は、まず観察し、それから真であり得る仮説に進む推論方法である。この方法には、多くの不正確な「洞察」に惑わされたり、自らの信念を揺るがす結果が出たりと、やりにくい面も多い。しかしこれ以外には、複雑な問題を解決する方法はない。
仮説形成的推論を、より実用的な問題解決に応用した手法が「センスメイキング(=意味を見出すこと)」である。センスメイキングを用いれば、より深く、正しく人間を理解することができる。
デフォルト思考が目に見える課題を明らかにするものだとしたら、センスメイキングは、目に見えない背景を吟味するための手法である。デフォルト思考は「属性」という客観的な数字や事実に着目するが、センスメイキングは定量的な分析よりも定性的な分析を重視し、人がそれらの属性をいかに体験するかという「アスペクト」に着目する。男・女といった生物学的な性別が「属性」なら、男らしさ・女らしさといった文化的な性別が「アスペクト」だ。
デフォルト思考とセンスメイキングは、お互いに補完し合うツールである。たとえばオペレーション
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