価値創造の思考法

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価値創造の思考法
出版社
東洋経済新報社
出版日
2012年11月08日
評点
総合
4.0
明瞭性
3.5
革新性
4.5
応用性
4.0
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おすすめポイント

著者は、独自のビジネスマーケティング理論を研究・開発し、企業の発展に寄与してきた。本書は「ひと」を軸にしたビジネスで「価値創造」を実現させるための、著者のエッセンスが集約された一冊である。実践の伴わない机上の空論と化したマーケティングの言説とは異なり、学術研究と現場での実践がリンクした、科学的かつ「人間くさい」アプローチであるという。

そもそも、企業が価値創造を実現できていないのはなぜなのか。その原因の1つは、企業が「新しい消費」を見ることができていないからだという。今の消費者が求めているのは、新商品ではなく、「心の豊かさ」や「毎日の充実感」につながる新しい価値や新しい見方なのである。

本書では、価値創造につながる3つのアプローチを主軸に据えて、価値要素を掘り起こすための問いや、購買行動を導く「感性消費行動デザイン」、顧客を「絆顧客」と「応援者」に変える方法などが、詳しく解説されている。また、この3つのアプローチというのは、「価値創造の『実現』」、「顧客の旅の『計画』」、「『ひと』軸のシステムのマネジメント」であるという。

最初は抽象的に思えるかもしれないが、各章を読み進めるうちに、パズルの欠片がつながっていき、全体像が明確になったときには、驚くべき発見が待っている。著者の理論の集大成ともいえる一冊なので、豊富な事例を参考にしながら読破してほしい。マーケティングの認識が大きく変わる面白さを味わえるはずだ。

著者

小阪 裕司
博士(情報学)。オラクルひと・しくみ研究所代表。
九州大学客員教授、静岡大学客員教授、中部大学客員教授、日本感性工学会理事。
山口大学人文学部卒業(専攻は美学)。1992年オラクルひと・しくみ研究所を設立。人の「感性」と「行動」を軸にした独自のビジネスマネジメント理論を研究・開発し、2000年からは、その実践企業の会である「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。現在、全都道府県から約1500社が集う。2011年、工学院大学大学院博士後期課程修了。学術研究と現場実践を合わせ持った独自の活動は、多方面から高い評価を得ている。
『日経MJ』(日本経済新聞社)での長寿人気コラム「招客招福の法則」をはじめ、連載・執筆多数。産官学にまたがり、年間80回以上の講義・講演を行う。
『「買いたい!」のスイッチを押す方法』(角川書店)、『「感性」のマーケティング』(PHP研究所)、『そうそうこれが欲しかった!感性価値を創るマーケティング』(東洋経済新報社)など著書多数。

本書の要点

  • 要点
    1
    消費者は、心の豊かさや毎日の精神的充足感につながる新しい価値を望んでおり、企業は、この価値観を重視した新たな提案を求められている。
  • 要点
    2
    新しい消費社会に対応するために重要な3つのアプローチは、商品の価値を掘り下げ、消費者に伝わるメッセージに落とし込む「価値創造の『実現』」と、購買行動を旅に見立てる「顧客の旅の『計画』」、そして、社会やビジネスをシステムとしてとらえる「『ひと』軸のシステムのマネジメント」である。本書では、各アプローチを実践するための思考ツールが提示されている。

要約

新しい消費社会の到来

新しい消費社会とは

戦後から近年までの日本の消費社会の特徴的な変化は、人口増加と所得増加、都市化であった。一方、現在では人口減少と所得停滞が進んでいる。社会背景が異なると、社会から要請されるものも変化するのだ。

著者は、現代の消費者の欲求は「心の豊かさを求め、毎日の生活を充実させて、楽しむ」ということに尽きると述べている。新しい消費の特徴は、「私有主義からシェア志向へ」「個人志向から社会志向へ」とも表現されている。こうした新しい社会をシステムとしてとらえることで、消費社会の構成要素と、その要素間の関係性が見えてくる。また、システム全体を俯瞰して、理解しておかないと、ビジネスの現場で間違った施策を打ってしまいかねない。

消費者に価値を認識してもらうために必要なこと
Satyrenko/iStock/Thinkstock

近年、企業戦略の基本である「カスタマー・バリュー・プロポジション」が再注目されている。「誰に対して、どんな商品や方法、経営資源で、どんな価値を提供するのか」という命題を明らかにし、新たな顧客価値を提示して、価値創造を行う必要があるからだ。

著者は、新しい消費社会の消費者のニーズに応えている企業はまだ少ないと語っている。消費者は、新しい商品ではなく、心の豊かさや毎日の精神的充足感につながる新しい価値を望んでいる。よって企業は、今の消費者の価値観を重視し、新しい価値や見方を提案するべきである。

企業は往々にして、価格を重視するあまり、商品が消費者に届くまでのサプライチェーンの中で、商品のデザインと価格以外の価値を切り捨ててしまいがちだ。例えば、開発スタッフの苦労や技術的課題を乗り越えた過程が、社内ですら共有されていないこともある。このままでは、商品本来の価値が消費者に伝わらない。

消費者が価値を認識するメカニズムにおいて、消費者の脳内に「買いたい」という情動が沸き上がることが出発点である。よって、価値を左右するのは、脳に入ってきた「情報」なのである。購買動機を喚起する情報は「感性情報」と呼ばれる。例えば、うなぎ店の前を通ると、良い匂いがして食べたくなるといった、五感を刺激する情報だ。こうした価値につながる感性情報を、消費者が理解できるように、うまく概念化・言語化することが重要である。

著者は「価値創造」を実現するために、「ひと軸(ひとを軸にする)」のビジネスの3つのアプローチが必要だと述べている。

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要約公開日 2016.03.25
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