戦後から近年までの日本の消費社会の特徴的な変化は、人口増加と所得増加、都市化であった。一方、現在では人口減少と所得停滞が進んでいる。社会背景が異なると、社会から要請されるものも変化するのだ。
著者は、現代の消費者の欲求は「心の豊かさを求め、毎日の生活を充実させて、楽しむ」ということに尽きると述べている。新しい消費の特徴は、「私有主義からシェア志向へ」「個人志向から社会志向へ」とも表現されている。こうした新しい社会をシステムとしてとらえることで、消費社会の構成要素と、その要素間の関係性が見えてくる。また、システム全体を俯瞰して、理解しておかないと、ビジネスの現場で間違った施策を打ってしまいかねない。
近年、企業戦略の基本である「カスタマー・バリュー・プロポジション」が再注目されている。「誰に対して、どんな商品や方法、経営資源で、どんな価値を提供するのか」という命題を明らかにし、新たな顧客価値を提示して、価値創造を行う必要があるからだ。
著者は、新しい消費社会の消費者のニーズに応えている企業はまだ少ないと語っている。消費者は、新しい商品ではなく、心の豊かさや毎日の精神的充足感につながる新しい価値を望んでいる。よって企業は、今の消費者の価値観を重視し、新しい価値や見方を提案するべきである。
企業は往々にして、価格を重視するあまり、商品が消費者に届くまでのサプライチェーンの中で、商品のデザインと価格以外の価値を切り捨ててしまいがちだ。例えば、開発スタッフの苦労や技術的課題を乗り越えた過程が、社内ですら共有されていないこともある。このままでは、商品本来の価値が消費者に伝わらない。
消費者が価値を認識するメカニズムにおいて、消費者の脳内に「買いたい」という情動が沸き上がることが出発点である。よって、価値を左右するのは、脳に入ってきた「情報」なのである。購買動機を喚起する情報は「感性情報」と呼ばれる。例えば、うなぎ店の前を通ると、良い匂いがして食べたくなるといった、五感を刺激する情報だ。こうした価値につながる感性情報を、消費者が理解できるように、うまく概念化・言語化することが重要である。
著者は「価値創造」を実現するために、「ひと軸(ひとを軸にする)」のビジネスの3つのアプローチが必要だと述べている。
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