こんな昔話がある。ある悪名高い金貸しが、多額の借金を抱えていた商人とその娘にゲームを持ちかけた。それは、財布の中に黒と白の小石を1つずつ入れ、その中から1つを取り出すというものだ。ゲームを行えば商人の借金は帳消しになり、そのうえ白い小石を取り出せば何事も起こらない。だが、もしも黒い小石を取り出してしまったら、商人の娘は金貸しのところに嫁がねばならない。逆に、金貸しの提案を拒めば、商人は借金を返せないかどで投獄されてしまう。
娘はゲームを行う決意をしたが、開始直前、恐ろしいことに気づく。金貸しが、地面に落ちた数多の石の中から拾ったのは、2つとも黒い小石だったのだ。
あなたが商人の娘の立場だったら、この状況でどのように振る舞うだろうか? 普通に考えると、選択肢はさほど多くないように思える。このまま小石を取り出せば確実に金貸しと結婚しなければならず、不正を訴えても、ゲーム自体がご破算になるだけで、商人は投獄されてしまうだろう。
では物語はどうなっただろうか。絶望的に思える状況だが、商人の娘は、見事にピンチを切り抜けてみせた。彼女は小石を1つ選び取ると、色を確認せずに地面に落とした。石はすぐに数多の石に紛れてしまい、どれだかわからなくなる。娘は金貸しに詫びると、こう言った。「でも大丈夫。財布の中に残っている小石を見れば、私が選んだのが黒か白かわかりますもの」。
この昔話は、「水平思考」と「垂直思考」について理解するための好例となる。「取り出す小石」に着目する垂直思考では、どんなに論理的に考えても悲劇的な結末から逃れることはできない。しかし、発想を転換させ、「残る小石」に着目することで、娘はピンチから逃れることができた。
このように異なる角度から状況を捉えることによって、垂直思考では解決できない問題の答えを得るのが水平思考のやり方である。
水平思考でもたらされる結論は、いったん答えを知ってしまえば、論理的に自明のことのように思われることがよくある。
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