サブプライム危機に続くリーマン・ブラザーズの破綻により、アメリカは空前の大不況に見舞われた。職を失くす人、軽犯罪の被害に遭う人も増えた。真っ先に打撃を受けたのは文化だった。雑誌は休刊や廃刊が相次ぎ、レストランやライブハウス、ギャラリーも次々に閉店していった。
しかし、そうした状況が続くうち、「少しずつ何かが変わっていくのを肌で感じるようになった」、と著者は言う。大手のチェーンでない、インディペンデント系のおいしいカフェが増え、産地直送の新鮮な野菜が手に入るようになった。個人経営の本やレコードショップもふたたび息を吹き返した。
すべてが突然現れたわけではないが、ポートランド、ブルックリン、北カリフォルニアといったリベラルな地域を中心に、こうした変化が同時多発的に起きているという。
こうした新しい潮流をつくっている人たちには、ある種共通の価値体系がある。
たとえば彼らは、コーヒーを飲むにも食材を調達するにも、大手のチェーンよりも地元の個人経営の店に行くことを好む。健康志向で、なるべく車に乗らない。古着や個人経営のブランドの服を着て、テクノロジーを操りつつも、自然を愛してアウトドアやガーデニングを楽しむ。政治社会への関心は強く、リベラル寄りの考えを持っている。
著者は彼らを、「ヒップ(hip)」「ヒップスター(hipster)」と呼ぶ。「ヒップスター」は、政治社会や、アート、食などの文化の嗜好における先鋭的なセンスと、反主流的な要素を持っているという意味がある。羨望や嫉妬もあってか、時代の流れとともに「ヒップ」はネガティブなニュアンスも含むようになってしまったが、それでも著者は、今変化を起こしているアメリカ人には「ヒップスター」の要素が確実にあると述べている。
ポートランドは、アメリカの北西部オレゴン州にある、中規模の都市である。この土地にある「ポートランド的価値観」は新しい潮流を形成するひとつの柱となっている。コーヒー業界の「サード・ウェーブ」を牽引する存在である、「スタンプタウン・コーヒー・ロースターズ」や「コアヴァ・コーヒー・ロースターズ」というインディペンデント系のカフェはポートランドで生まれた。「サード・ウェーブ」とは、豆の仕入れや淹れ方など、各工程にこだわる、コーヒー通が好むようなグルメコーヒーの盛り上がりのことだ。
ポートランドは主流の文化とは遠く、北カリフォルニアのヒッピー文化の影響も受けていることから、独立の精神が強い。都市計画として市の規模は小さくとどめられ、周辺地域の農業や林業は守られてきた。一つひとつのブロック(街区)が小さく、
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