メモリーミスとは「上司の指示を忘れる」「書類の置き場所を忘れる」といった記憶そのものが原因で起こるミスのことである。このようなメモリーミスは、記憶に対する過信、つまり「しっかり覚えた」「忘れないだろう」という思い込みに対し、あっさり忘れてしまうという「現実」とのギャップから発生するものである。
記憶に関する研究の草分けともいえる「エビングハウスの忘却曲線」によれば、「覚えた」と思ってから20分後には覚えたことの42%を忘れてしまい、1日後には74%を忘れてしまうのである。この研究結果から、自分の記憶力を過信してはならないことを、強く認識しなければならない。
また最近では、研究が進み「覚えた直後に急速に忘れてしまう」ことの原因も判明してきている。記憶のひとつである「ワーキングメモリ」は脳のメモ帳と例えられ、一時的に記憶が貯蔵される領域となっている。例えば本を読むとき、直前の文章の内容を記憶しておかないと読んだそばから忘れてしまい、読み進めることはできない。会話の際も、相手が発した言葉を一時的に覚えているからこそ、言葉をつなぎながら話の内容を理解することができる。そのような場合にワーキングメモリは活躍している。
しかしこの一時的な記憶の保管場所である「ワーキングメモリ」の容量はとても小さく、貯蔵できる物事は、せいぜい7つ前後(7±2)と言われている。「しっかり覚えた」と思い込んでいたことも、新しいことを記憶するために次々に追い出されてしまう。しかも職場には常に新しい刺激や情報が飛び交っているので、この傾向は強くなる。
こうした記憶のミスは脳の限界によるものであり、したがって「忘れない」ではなく「忘れるものだ」という前提に立って対策を講じるべきである。どうしたら忘れる自分をフォローできるか、という視点の切り替えが重要となる。
そもそもビジネスシーンでは、受験や試験と異なり、ほとんどの場合で「カンニング」が許されている。ノートやメモは使い放題、スケジューラーに予定を入れておけば自動で通知されるし、人前で話すプレゼンはパワーポイントを見ながら行える。「覚えておかなければ」と思い込むのではなく、このような外部の補助ツールを効率的に活用し、ワーキングメモリから記憶が抜け落ちてもフォローができる状態にしなければならない。
ワーキングメモリは短期的に記憶を保存する役割だけでなく、保存された情報を処理する「作業台」の役割も持っている。覚えておかなければならないことが多ければ多いほど、作業スペースが狭くなってしまい、注意力が散漫になって情報処理ができなくなってしまう。外部の補助ツールを用いてワーキングメモリの情報を削減すると、その分仕事の精度やスピードが向上するのである。
上司が新人に対し「メモを常備しろ」と口うるさく言うのは、新人時代は覚えるべきことが沢山あり、頭に入れても忘れてしまいがちだからである。そして、新人のころからメモすることを習慣付けていれば、今後より高度な業務を並行して進めるときでも、ワーキングメモリをオーバーフローさせることなく対応できる。上司はこれまでの経験からこの重要性を認識しているので、繰り返し指摘するのだ。
アテンションミスとは、うっかりミス、見落としといった「注意」に関するミスのことである。うっかりミスや見落としなら「もっと注意しろ」で解決できると考えがちだが、実際にはアテンションミスを完全に撲滅することはできない。この原因はワーキングメモリと同様に人の「注意」には限りがあるためだ。
実は人は、世界をそのまま見ているようで、見ていない。
3,400冊以上の要約が楽しめる