著者は以前、従順な部下であるAくんをマネジメントする立場にいた。Aくんは優秀なプログラマーであり、頼んだ仕事をいつも引き受けてくれる。しかし、彼は仕事の見積もりが苦手なため、「自分が理想とする完成日時」までに終えられると考えてしまうタイプだった。そのため、たとえば締め切りが1週間後の仕事を依頼したとき、ほかの案件に予想外の時間が取られ、締め切り前日に徹夜しても、結局は締め切りに間に合わない。Aくんのように、締め切り間際にラストスパートで仕事を終わらせようとするタイプは「ラストスパート志向」と言われ、仕事上では最も避けるべきタイプだ。
また著者には、Tくんという天才級の才能を備えた部下もいた。しかし、Tくんは才能と馬力に満ちているがゆえに、締め切り間際になって、設計されていない機能を追加してしまうのだ。納品間際に設計書にない機能を思い付きで追加すると、全体の計画に支障が出てしまう。仕事の出来にムラがあるため、能力が成果に見合っていないというタイプだ。この2人の仕事が終わらないのは、どちらも時間の使い方を間違えているからである。
このような失敗を防ぐには、仕事にかかる時間を正しく見積もる必要がある。仕事の見積もりは、数学のテストに例えるとわかりやすい。数学のテストは、前半に基本問題、後半に応用問題が用意されている。基本問題はただの計算なので、どれくらいで解けるのかがわかりやすい。しかし、応用問題となると、解答にかかる時間が予測しづらい。仕事が期限までに終わらない人は、この応用問題を甘く見ている。本来なら、複雑な応用問題に先に取りかかり、かかる時間を把握する必要がある。
日本人は徹夜してでもラストスパートで仕事を終わらせようとする。一方、アメリカ人は朝早くから働く。この違いに効率的な働き方のヒントが隠されている。家族を大事にしているアメリカ人は、朝7時から働きはじめ、夕方には仕事を終えて家族と過ごす。よって、必然的に生産性を上げなくてはいけない。しかし、残業が美徳とされる日本の職場では、そのような強制力がなく、プライベートより会社を重視し過ぎた挙句、仕事の生産性は落ちやすくなるのだ。
仕事が終わらないとき、「もっと余裕を持っておけばよかった」と考えることがある。この心理的な余裕のことを「スラック」と呼ぶ。たとえば睡眠不足の人や、仕事に不安を抱えている人は、スラックを持ちづらい。
人はスラックがない状態が続くと、みるみる生産効率が落ちていく。そして、効率的な仕事の仕方に気付かず、がむしゃらに仕事にまい進してしまうのだ。暗闇のトンネルの中を進むかのような行為は「トンネリング」と呼ばれる。トンネリングにはまると、終わりが見えない中で処理能力が落ちていくので、結果として仕事は終わらないという悪循環に陥ってしまう。ここから脱するには、心の余裕を持つことがカギとなる。
正しい時間の使い方をマスターすると、どのようなメリットが得られるのだろうか。まずは時間を上手く使いこなすことで、仕事のリスクを測定できるようになる。上司から指示された納期に間に合わないと判断すれば、すぐに報告すればよい。
また、仕事の質を追求した結果、締め切りに間に合わないとすれば本末転倒である。仕事が終わる見通しが立っていない状態で、質を高めようとするのは問題だ。なぜなら、
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