日本酒ドラマチック

進化と熱狂の時代
未読
日本酒ドラマチック
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日本酒ドラマチック
ジャンル
出版社
出版日
2016年05月26日
評点
総合
4.2
明瞭性
5.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

今、日本酒がブームだ。

全国各地で毎週のように日本酒イベントが開催され、若い女性も多く押しかけている。街では日本酒を売りにする飲食店が次々オープンしており、外国でも日本酒熱は高まっている状況だ。だが、少し前まで、日本酒といえばオヤジの酒、古い酒というイメージだったし、売り上げも右肩下がりの時代が続いていた。そんなイメージを払拭し、新しい日本酒ブームを造りだしたのが、主に1970年代半ば以降に生まれた酒蔵の後継者たちである。

著者は、そんな彼らを10年以上にわたって追いかけてきた、筋金入りの日本酒好きジャーナリストだ。若き蔵元たちが様々な困難の中、理想とする味を追い求める様を見事に描きだした本書には、日本酒に興味がない人であっても、読ませるだけの力が十分に備わっている。

また、蔵元だけでなく、日本酒のもととなる種麹の造り手や酒米農家、さらには木桶造りの職人への取材もしっかりと掲載されているのも好印象だ。本書を読むだけでも、1つの酒ができあがるまでに、実に多くの人が関わっているとうかがい知ることができるだろう。

良質な日本酒のガイド本としても、ぜひ手元に置いておきたいぐらい秀逸な一冊である。日本酒に少しでも興味があるのなら、本書を手に取らない理由はない。

著者

山同 敦子(さんどう あつこ)
食と酒のジャーナリスト。JSA認定ソムリエ、SSI認定唎酒師。長野県原産地呼称管理制度における日本酒および焼酎官能審査委員。薩摩大使。東京生まれ、大阪育ち。上智大学文学部卒業。新聞社、出版社を経て、酒蔵を訪問したことがきっかけでフリーランスに。以後、「土地に根付いた酒」をテーマに、全国の日本酒蔵、焼酎蔵、ワイナリーなどの取材を続けている。『dancyu』『サライ』ほか多くの雑誌で執筆。著書に『愛と情熱の日本酒――魂をゆさぶる造り酒屋たち』(ダイヤモンド社、ちくま文庫)、『旨い! 本格焼酎 匠たちの心と技にふれる旅』(ダイヤモンド社)、『ヴィラデストワイナリーの手帖』(新潮社)、『至福の本格焼酎 極楽の泡盛 厳選86蔵元』(ちくま文庫)、『こどものためのお酒入門』(イースト・プレス)、『めざせ! 日本酒のお酒入門』(イースト・プレス)、『めざせ! 日本酒の達人 新時代の味と出会う』(ちくま書店)、『極上の酒を生む土と人 大地を醸す』(講談社+α文庫)などがある。

本書の要点

  • 要点
    1
    酒造りは、日本酒が好きなだけでは続かない、厳しい仕事である。だからこそ、従業員がモチベーションを保つように配慮することが肝要だ。(「而今」)
  • 要点
    2
    酒造りは表現であり、平凡であることは悪である。日本酒の歴史に敬意を払っているからこそ、未来につなげていくために、新しいことに挑戦していくべきだ。(「新政」)
  • 要点
    3
    世襲の蔵元ではないからこそ、人に対しても酒に対しても、人一倍真摯に接してきた。そして単なる真似にならないように、自分の蔵の味を守りながら、より味を洗練させる努力を続けている。(「ロ万」)

要約

「而今」

どうすれば売れるのか
bee32/iStock/Thinkstock

「而今」(じこん)といえば、ほどよい旨み、爽やかな酸味、果物を思わせる心地よい香りが特徴的であり、この味に魅了されるファンは数多い。造る数量が限られているため、ようやく入手できた酒処では、誇らしげに「而今あります」と張り出すほどだ。

「而今」を生み出したのは、三重県名張市にある木屋正酒造6代の大西 唯克(ただよし)さんである。もともと理系分野が好きだった大西氏は、上智大学機械工学科に進学。いずれ酒造業を継ぐことを意識して、就活ではビール会社と食品会社をまわった。採用された雪印乳業(現・雪印メグミルク)では、もの造りの意識について、多くを学んだ。

雪印を退社したのち、広島の独立行政法人酒類総合研究所(旧・国税庁醸造試験所)で、酒造りの基本的な理論を学んだ大西氏は、実家に戻って家業を継ぐのだが、ここで想像していた以上の厳しい現実に直面する。4代目の祖父の時代に、700石(一升瓶で7万本)ほどあった売り上げが、200石を割っており、しかも年々売り上げを落としていたのだ。さまざまな打開策をしかけてはみるものの、いずれも反応は鈍く、焦る気持ちが募るばかりだった。

心から美味しいと思う酒を

万策尽きたと思われたころ、大阪の近鉄百貨店を会場とする催事への出展が決まった。そこで、大西さんは1週間、販売員として売り場に立ち続けたが、相変わらず評判は芳しくない。

しかし、大阪の居酒屋で山形の酒「十四代」に出合ったことが、大西さんのその後の人生を変えた。若い蔵元が杜氏を兼任し、自ら造った酒として、「十四代」が東京や大阪で話題を集めていたのは知っていたが、飲んだのはそれが初めてだった。「心から美味しいと思った日本酒は初めて」と語る大西さんは、まず営業販売よりも、質のいい酒を造らなければならないと心に決めた。

実際に酒造りに関わりはじめてみると、自分の酒蔵の汚さ、製造工程における温度管理、できた酒の管理のずさんさが目に入った。状況を改善しようと杜氏に訴えてみたものの、説明すればするほど無視されてしまう。

業を煮やした大西さんは、ついに造りに入って3年目の2004年、29歳という若さで杜氏の職に就き、自ら酒造りを始めた。そして全身全霊を傾け、身を削るようにしてようやく完成させた。そして、各地のコンテストや利き酒会に出展したところ、見事に平成16酒造年度の全国新酒鑑評会で金賞を受賞。さまざまなところから声がかかるようになった。

チームを率いるということ
alphaspirit/iStock/Thinkstock

すべてが順調に進んでいるかのように見えたが、現場では体制が整わず、綱渡りの状態が続いた。かつては秋になると、杜氏の里から、杜氏が蔵人を引き連れて酒蔵に来たものだが、今は就職情報誌で募集したり、ハローワークに登録したりして働き手を探さなければならない時代である。人が集まらないというわけではないのだが、酒造りの現場は単純作業の繰り返しであり、日本酒が好きというだけでは続かない。それだけに、従業員がモチベーションを保てるような配慮は必要不可欠だ。しかし、当時の大西さんにはその余裕がなかった。たった1人しかいなかった社員も辞めてしまい、途方にくれた。

事態が好転したのは2011年10月、ハローワークで応募してきた23歳の北脇 照久さんを雇用してからだ。ライオンのような金髪頭で面接にやってきた北脇さんだったが、

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要約公開日 2016.12.09
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