2015年、世界のM&A金額は過去最高となり、10兆円規模の大型案件も耳目を集めた。国境なき経済の流れが加速し続けている現在、世界の市場を舞台にビジネスを展開していかなければ、勝ち残れない時代になっていると言える。つまり、M&Aなしには、世界におけるシェアがごくわずかとなる可能性が高い。さらには、人口も市場も縮小傾向にあるため、もはや自社の力だけで成長するには限界があり、外部の力を借りて成長する「アーティフィシャル・グロース」も成長戦略のひとつと考えられるようになってきた。
今では、中小企業のM&Aを専門とした仲介会社も登場している。このようにして、かつては「ハゲタカ」「乗っ取り」といったネガティブなイメージを帯びていたM&Aも、今では企業の規模を問わず、重要な経営戦略のひとつとなっているのである。
M&Aは、買収に成功したら終わりというものではない。むしろ、買った会社を自社に一体化させ、シナジーを出すうえでは、買収後に経営資源を統合させるプロセス、「ポスト・マージャー・インテグレーション(PMI)」が重要である。
M&Aの成功ノウハウをもつ企業の例を見ると、統合後約3か月以内という短期間で、生産拠点や企業文化などのさまざまな経営資源を統合することが不可欠だとわかる。買収した企業の経営に入り込むことなく相手に任せきりになっていたのでは、M&Aは意味をなさない。買収先の経営権を握る自信がなければ、M&Aを行う意味がないと言ってもよいだろう。
M&Aを行う意義とは何だろうか。M&Aには、次の5つの目的がある。1つ目は「海外事業の強化」で、海外進出の際に現地で基盤をもつ企業を買収するケースである。2つ目は「本業の周辺領域への拡大」に向けて、本業と近い領域の技術や製品をもつ同業他社を買収し、本業のさらなる強化を図るケースだ。3つ目は「既存事業の強化・拡大」を目的に、買収により顧客の増加、規模の拡大によって交渉力を高め、コストダウンを見込むケースである。そして4つ目は「事業分野のシフト」であり、将来的に自社の主力事業にしたい領域の事業を買収するケースだ。最後に5つ目は、「中小事業者の集約化・効率化」であり、中小企業や零細企業がまとまることにより、事業の効率化をめざすケースである。
M&Aを何度もくり返すことにより、会社の価値が高まるという側面もある。例えば、ネスレやユニリーバは、事業の価値を定期的に見極め、同一事業カテゴリーにおいても、買収と売却を進め、事業ポートフォリオを最適化している。こうした姿勢が企業の強さの源泉になっていくのだ。
日本におけるM&Aの動きはどうだろうか。最近、目立っている典型的なタイプは、世界での競争力を高めるために大手同士が合併するケースや、海外の企業に立ち向かうために競合他社同士が手を結ぶケース、業界の垣根を超えて手を結びシナジーを追求するケースの3つである。
中でも、世界各国のたばこメーカーを買収し、世界シェア第4位へと成長し、頭角を現している日本たばこ産業(JT)、自動車メーカーの海外進出に伴い米国のファイアストンを買収し、苦境を乗り越えて世界トップのタイヤメーカーとなったブリヂストン、カメラ用フィルムの衰退に負けず、コピー機や複合機、さらには医薬品や再生医療の分野にも進出し、見事復活を遂げた富士フイルムホールディングスなどの成功例が参考になる。
そして、中小企業の良いお手本となるのは、調味料大手のミツカンである。高額の買収をするノウハウがなくても、小規模の買収をくり返すことで、グローバル企業へと変化を遂げられることを証明しつつある。
また、近年の投資ファンドは、大型案件のみならず、中堅・中小企業の買収案件にもきめ細かく対応するようになった。これは後継者不在という課題の突破口になることが期待される。もはやM&Aは大企業だけの専売特許ではないことが、日本でも明らかとなっている。
M&Aの成功事例の陰には、多くの失敗があることも確かだ。その1つは、妥当な買収金額にプレミアム分を上乗せして、高い金額で相手企業を買ってしまい、その分を回収できないまま経営に失敗するケースである。ほかにも、ワンマン社長が手腕をふるって買収を進めたものの、社内の体制や意識がついていけずに失敗するケースや、投資銀行に勧められたとおりに契約して失敗するケースなど、さまざまだ。とりわけ、「経営力がなければM&Aは失敗する」という点については、つい見落とされがちである。
こうした例から導き出せる、M&Aの成功の条件は、
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