中国は、自国の経済成長率を7%前後に引き下げ、生産・投資主体の高度成長経済から消費主導の経済、いわゆる「新常態(ニューノーマル)」に入ったと言っている。しかし、中国がこの先本当にこのニューノーマルを維持できるかは、まったく分からない。中国経済の減速が世界経済に及ぼすマイナスの影響は、想像以上であり、3つのチャネルを介して世界へ波及すると考えられる。
ひとつは貿易である。中国向けの輸出減少が景気を下押しする。中国の貿易相手は、どこも中国の10%成長を織り込んで自国の経済を成長させてきた。特に対中依存度が高いアジアやアフリカへの影響は大きい。
つぎは資源である。中国の資源需要が減少するという観測から資源価格が下落し、その影響で資源国の所得も減少させるだろう。中国の鉄鋼(粗鋼)生産キャパシティは8億トンあるが、需要はその半分、4億トンしかない状況だ。余剰の4億トンをダンピングされたら世界中の鉄工所が危機に瀕することになる。イギリスは中国の鉄をかなり買っているが、スコットランドの鉄工所が既にひとつ閉鎖に追い込まれている。
3つ目は金融面だ。通貨安に伴う債務負担増やインフレ圧力、株安によるマインドの悪化が懸念されている。かつて中国で不動産バブルがはじけたとき、政府に「株で稼げ」と言われ、一斉に資金が株式市場に流れ込んだ。ところが現在は株価が下がり、非常に不安定で危うい状況にある。
アメリカの経済は比較的好調である。失業率は5%まで下がり、月々の新規雇用は20万人を超えている状況だ。そこでFRB(連邦準備制度理事会)は金融緩和を終了して、政策金利を上げることを決定した。日本やヨーロッパはまだ金利を上げられる状況にないので、この利上げによりアメリカに資金が流入することが予想される。
その結果、アメリカのみが景気回復して、世界経済を潤すことはないだろう。むしろ新興国からの資金流出などマイナスのインパクトが心配される。世界を巻き込まないアメリカの一極繁栄が何をもたらすのか。大きな不安定要因である。
現在は世界のいたるところで地政学リスクは存在するが、もっとも注目すべきなのは「イスラム国(IS)の勢力拡大」だろう。
ムハンマドの後継者を名乗るバグダディが作った疑似国家ISは、占領した施設を活用した石油の販売、美術品の闇売買、人質を取り身代金を要求するなどにより、年間500億~600億に上る収益があると言われている。こうした収入が続く限りは、疑似政府を維持することは可能である。また世界的なネットワークを構築していて、どこでもテロを起こす可能性がある。このISによるリスクはしばらく続いていくだろう。
中国経済が減速し世界経済に悪影響をおよぼし、人口減から国内市場が先細る中、日本企業が活路を求めて進出すべき国はどこか。40年前の日本と同じような、労働力増加率が人口増加率を上回り、経済成長にプラスに寄与する「人口ボーナス」がある国だ。人口が多く、人口増加率も高い新興国で比較的政情が安定している国にはチャンスがある。
例えばフィリピンは、国民の大多数はカトリック信者で、堕胎ができないこともあり、2055年頃までは「人口ボーナス期」が続くといわれている。日本企業はそのような国を第2の日本ととらえ、現地に腰を据え、そして地道に市場開拓をしていく必要がある。
そしてこれらの国では、わざわざ新しい仕掛けをせずとも、これまでのビジネスで十分商売ができる可能性がある。
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