大西洋のど真ん中に浮かぶアゾーレス諸島の港町に「ピーターズ・カフェ」はある。このカフェには、世界の隅々からアイデアが集まってくる。ここに集った人たちの口から、一見まったくランダムなアイデアが飛び交う。ひとつの会話が別の会話に発展し、次に何が飛び出すかは誰も予想がつかない。「ピーターズ・カフェ」は多種多様なものが結びつく連結点なのだ。
このような場所がもうひとつある。それは私たちの頭の中であり、異なる文化や領域、学問が収れんする場所だ。既存の概念がぶつかり合い、融合して、斬新なアイデアが生まれる。著者はそれを「交差点」と呼び、革新的なアイデアが次々と実現する状態を「メディチ・エフェクト」と名付けた。個人であれ、組織であれ、異なる専門分野や文化が出合う交差点に踏み込んだ者は、一見、何の関係もなさそうな分野同士を関連づけ、結合させることで、思わぬ革新を生み出すのだ。
本書では、交差点でどんなことが起きているのか、そこで見出したアイデアをどうすれば生かせるのかを明らかにしていく。
アイデアには革新的なものと、そうでないものがある。革新的なアイデアとはどんなものを指すのだろうか。
まず、クリエイティブなアイデアは新しいものでなければならない。過去に誰もやったことがないユニークなものでなければ、クリエイティブだとは言えない。また、いくら新しいアイデアでも荒唐無稽なものは、クリエイティブに該当しない。クリエイティブであるためには、一定の妥当性、つまり価値がなければならないのだ。さらに、革新的なアイデアは、社会で実行に移されることが大前提となる。どんなに画期的で価値がある発明でも、それを思い描くだけではイノベーションとは言えない。
あるアイデアが新しく、価値あるものだと最終的に決めるのは社会である。また、ある製品がイノベーティブかどうかを見極めるには、それが実際に人々に使われ、評価されなければならない。
革新的なアイデアはどのように生み出されていくのだろうか。アイデアには二種類ある。ひとつは、ある分野の中だけで発展する「方向的アイデア」である。もうひとつは、異なる分野を交差させて生まれる「交差的アイデア」だ。
方向的イノベーションは、企業が既存のプロセスを合理化して効率化を図るようなもので、目的は既存のアイデアに改良や調整を加えて発展させることにある。アイデアの価値を無駄にしたくなかったら、方向的イノベーションは欠かせない。一方、交差的イノベーションは、驚きや意外性に満ちており、これまでにない新しい方向への飛躍を伴い、世界に大きな影響を及ぼす。
まったく新しいことを生み出すためには交差的アイデアが必要だが、それを発展させ、実用可能なものにするには、方向的アイデアも必要不可欠なのである。
今日、交差点は増加の一途をたどっている。その背景には、複数の国や文化にまたがる「人の移動」、異なる分野の研究者が協力して研究に臨む「科学における相互乗り入れ」、そして、「コンピュータ技術の飛躍的向上」の三つの力が働いている。この三つの力は、驚くほど広範囲で影響を及ぼしているのだ。
ニューヨークにあるスウェーデン料理レストランのエグゼクティブ・シェフが突然亡くなった。その代役を務めることになったのは、雇ったばかりの若者、マーカス・サミュエルソンだった。オーナーは躊躇したが、サミュエルソンはスウェーデン料理の枠にとどまらず、世界各地の食べ物を自在に組み合わせ、ユニークな料理を考案した。料理の世界にある垣根を取り払った結果、独創的でとびきり味わい深い料理は高い評価を得て、レストランを成功に導いた。
私たちには連想のバリアがある。あるひとつのことから、それに関連した内容を連想してしまう。例えば、
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