1990年代以前は、「善いことをしなければならない」という社会的圧力の高まりを受け、あくまでそれに対処するために、企業として支援する対象を選ぶことが多かった。また、利益誘導していると思われないよう、主要商品と関係のありそうなものは避けられた。どの団体を支援するかは、結局のところ、会社幹部や取締役会の好みにより左右されていたのだ。
しかし、現在の傾向はそれとはまったく異なっている。企業の事業目的を支持する、あるいは主要製品や市場に関連があり、市場シェアや浸透率の上昇、ブランド構築につながるような社会的課題に取り組むことが多くなった。さらに、コミットメントは長期的なものとなり、企業のノウハウ(専門知識や技術支援・サービス)提供や、使用しない機器の寄付のような現物供与もするようになっている。プログラムの評価測定を行うことも当たり前となった。
企業の社会的課題に対する取組みがこのような変化を遂げたのは、こうした取り組みが売上や市場シェアの向上、ブランド強化、企業イメージの向上、従業員の定着率向上、営業コスト削減、投資家へのアピールなど、さまざまなかたちで、企業の最終利益に貢献することが明らかになってきたためである。
たとえば、化粧品製造・販売業のザ・ボディショップは、設立当初からフェア・トレードや動物実験反対などをしてきたことで知られるが、マスコミからの評判があまりにも良かったため、新たに会社の宣伝をする必要がなかったという。
企業が行う社会的責任活動は、(1)コーズ・プロモーション、(2)コーズ・リレイテッド・モデル、(3)ソーシャル・マーケティング、(4)寄付や助成金による活動、(5)従業員のボランティア、(6)社会的責任のある事業、の6種類に分けられる。そのうち、前者3つは、マーケティング部門主導で行われるものだ。一方、後者3つは、マーケティング部門というよりは、企業全体の取組みとして行われるものである。それぞれの活動には長短があるため、その特性を把握して取り組む必要がある。
まず、コーズ・プロモーションについて考えてみよう。「米国で毎晩空腹のまま眠る子どもの数」のようなキャンペーンを打ち出し、社会的課題に注目させるのがコーズ・プロモーションであり、その狙いは、企業が社会から注目を集め企業イメージを向上させていくことにある。しかし、その実施方法によっては、キャンペーンに協賛する多数の企業のうちの1つになってしまったり、短期的なキャンペーンに終わってしまったりする可能性がある。その場合、投資額やその効果が把握しにくい。
このようなコーズ・プロモーションの側面を考慮し、自社製品と会社の価値に結びつく課題を注意深く選択している企業がある。乳がん患者支援団体とのパートナーシップを形成し、取引先となる小売業者に強くアピールすることに成功したヨープレイ・ヨーグルトはその好例だ。
コーズ・リレイテッド・マーケティングとは、製品の収益の一部、もしくは現物を非営利団体や財団に寄付することで、消費者の関心を引いて購買意欲を向上させる手法である。反面、消費者の行動が直接的に寄付につながっているゆえに、企業の貢献や寄付活動に透明性が保たれていない場合、消費者の信頼を損なってしまうというリスクを抱えている。
そのような事態を避けるためには、寄付の条件について具体的な契約書を交わす、法的制限と開示請求に対し適切な準備をしておく、寄付金について信頼性ある追跡システムを確立しておくなどの対策が必要不可欠だ。
コーズ・リレイテッド・マーケティングをうまく成功させている企業には、いくつかの特徴がある。
3,400冊以上の要約が楽しめる