現在、我々が欧州連合(EU)と呼んでいる組織は、第2次世界大戦の惨禍から生まれた。前身である欧州経済共同体(EEC)自体は1957年のローマ条約によって創設された。当面の目標は慎ましく経済面におかれていたようではあるが、その創設条約の前文には、「欧州の人々の間に、絶えず緊密化する連合の基礎を築くことを決意した」とEECの基本的な原動力が記されている。
欧州連合の歩みは、以下の5つの主導的信念によって支えられてきた。
すなわち、1.次の欧州戦争を避けたいという願望、2.欧州は1つにまとまるのが自然だとする考え方、3.経済的にも政治的にもサイズが物を言うという発想、4.欧州がひとつになってアジアからの挑戦に対抗する必要があるという認識、5.欧州の統合はある意味で不可避であるとの思い、である。
経済の話はひとまず脇に置き、政治の面で望まれたことや期待されたことに目を向けるなら、EUは多くの点で成功者だと言える。まず欧州戦争は起こっていない。特にフランスとドイツが緊密な同盟国となっている。EUの助けでかつてのソ連圏の国々が西側に再吸収されたし、今も加盟を待つ国々が列を作っている。EUは世界の舞台における加盟国の発言力や影響力を広げてきた。
しかし現在のEUは、いくつかの重大な欠陥を抱えており、将来はさらにその傾向が強まると、著者は危惧している。その1つはEUの制度や構造、その運営が概して低レベルなことである。EUは1つの国家になることを目指し、多くの分野で各加盟国の国民国家としての役割を弱体化させてきた。にもかかわらず、代わりの国家としての機能を完全には果たしていないため、混乱が生じている。例えば英国で特に不満が聞かれるのは、EUがあまりに多くの規制を押し付けている点だ。EU全体への波及効果やコストを考えていないので、一部の国では適切で実際的であっても、他の国ではまるで不適切というものも数多くある。
かつて欧州の統一を望んだ人々は、共通の国家に繋がる道筋として単一通貨の創設を目標とした。だが、隣国と通貨を共有する場合、怖いのは相手国に通貨の価値を損なうような政策を採られることだ。そうなれば債権利回りの急騰、通貨の暴落、インフレの急伸、銀行危機を招くことになり、自国経済に明らかな負担がのしかかる。これを避けるには財政政策を共同管理する何らかの政治同盟を結ぶことが必要だ。しかし、通貨同盟の設計者たちは、財政同盟や政治同盟を整えないままユーロを導入した。
欧州のエリート層が繁栄を後押しするつもりで創設したユーロが、欧州経済の不振を招いた挙げ句の果てに、今ではデフレを避けるための効果的な行動を取る妨げになっているのだ。
ユーロ圏の国々は岐路に立っている。ユーロを機能させるためには、彼らは財政・政治同盟に向かわなければならない。とはいえそれは簡単な仕事ではない。
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