欧州解体

ドイツ一極支配の恐怖
未読
欧州解体
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ドイツ一極支配の恐怖
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欧州解体
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2015年09月03日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

2016年6月23日に行われた英国の国民投票で、EU離脱支持が残留支持を上回った。そして今後2年間をかけてEUを離脱することが決まり、新首相のもとでEUおよび関係各国との調整に入った。EUと英国の動向は世界中から注目を集め続けている。

著者ロジャー・ブートルは英国シティのNo.1エコノミストのひとりであり、その分析力には定評がある。本書でも、単一通貨ユーロの問題点や、英国国民投票の際に離脱派が主張した移民問題など、様々な事象を多角的に分析している。その上で、EUを改革する必要性、さもなければ解体か加盟国の離脱が起こることを明確に指摘している。原著は2014年に出版されており、当時はまだほとんどの人にとって英国のEU離脱は現実味を帯びていなかったはずだ。だが著者はまるで英国が離脱を選ぶことを予見していたかのようである。

第2次世界大戦後、様々な課題を抱えつつもEUの旗の下で統合へ向かうかと思われた欧州だが、英国の離脱によって、世界を巻き込みながら再び混乱期へ突入しようとしている。本書では、EUを離脱した後の英国にどのような選択肢があり得るのか、一方で残留した加盟国や周辺国の状況なども、詳しく検討されている。

日本もEU、英国双方と経済的に強く結びついている。したがって欧州の動向によって日本経済にこれからどのような影響が現れるのかは計り知れない。慎重な対応が迫られている今、まさに読んでおくべき一冊である。

ライター画像
櫻井理沙

著者

ロジャー・ブートル
英国シティのNo.1エコノミストのひとり。1999年にロンドンに設立された欧州最大の経済調査会社「キャピタル・エコノミクス」創業者兼経営者。ベストセラーになった『デフレの恐怖』(邦訳、東洋経済新報社)でデフレ時代の到来をいち早く予測した。ブラウン政権では、独立経済アドバイザーとなる。下院財務委員会の顧問も務め、保守党政権が選出した「ワイズ・メン」のひとりでもある。テレビやラジオに頻繁に出演するほか、デイリー・テレグラフ紙に定期的にコラムを執筆。「コメント・アワード2012」では経済分野の年間最優秀コメンテーターに選ばれた。2012年7月、キャピタル・エコノミクスのチームとともに栄えある「ウォルフソン経済学賞」を受賞。オックスフォード大学出身。

本書の要点

  • 要点
    1
    各加盟国の実情をかえりみない多くの規制や、問題のある単一通貨ユーロなど、EUはその構造と運営に重大な欠陥を抱えている。
  • 要点
    2
    英国をはじめ移民問題に直面しているいくつかの加盟国は国境を管理したがっているが、そのためにはEUの概念や未来像を丸ごと変革しなければならない。
  • 要点
    3
    EUを離脱した場合、英国はEUや中国を含む世界のできるだけ多くの国々とのFTAの締結や、NAFTAへの加盟などを目指すだろう。そして環境や国防など、英国とEUの双方の利益となる分野では協力すべきだ。

要約

EUの起源と現在の問題

EUはいかにして、またなぜ創設されたのか

現在、我々が欧州連合(EU)と呼んでいる組織は、第2次世界大戦の惨禍から生まれた。前身である欧州経済共同体(EEC)自体は1957年のローマ条約によって創設された。当面の目標は慎ましく経済面におかれていたようではあるが、その創設条約の前文には、「欧州の人々の間に、絶えず緊密化する連合の基礎を築くことを決意した」とEECの基本的な原動力が記されている。

5つの主導的信念
artJazz/iStock/Thinkstock

欧州連合の歩みは、以下の5つの主導的信念によって支えられてきた。

すなわち、1.次の欧州戦争を避けたいという願望、2.欧州は1つにまとまるのが自然だとする考え方、3.経済的にも政治的にもサイズが物を言うという発想、4.欧州がひとつになってアジアからの挑戦に対抗する必要があるという認識、5.欧州の統合はある意味で不可避であるとの思い、である。

成功の歴史

経済の話はひとまず脇に置き、政治の面で望まれたことや期待されたことに目を向けるなら、EUは多くの点で成功者だと言える。まず欧州戦争は起こっていない。特にフランスとドイツが緊密な同盟国となっている。EUの助けでかつてのソ連圏の国々が西側に再吸収されたし、今も加盟を待つ国々が列を作っている。EUは世界の舞台における加盟国の発言力や影響力を広げてきた。

政治制度としてのEUが抱える問題点

しかし現在のEUは、いくつかの重大な欠陥を抱えており、将来はさらにその傾向が強まると、著者は危惧している。その1つはEUの制度や構造、その運営が概して低レベルなことである。EUは1つの国家になることを目指し、多くの分野で各加盟国の国民国家としての役割を弱体化させてきた。にもかかわらず、代わりの国家としての機能を完全には果たしていないため、混乱が生じている。例えば英国で特に不満が聞かれるのは、EUがあまりに多くの規制を押し付けている点だ。EU全体への波及効果やコストを考えていないので、一部の国では適切で実際的であっても、他の国ではまるで不適切というものも数多くある。

【必読ポイント!】 通貨ユーロが抱える問題

ユーロはトラブルの根源

かつて欧州の統一を望んだ人々は、共通の国家に繋がる道筋として単一通貨の創設を目標とした。だが、隣国と通貨を共有する場合、怖いのは相手国に通貨の価値を損なうような政策を採られることだ。そうなれば債権利回りの急騰、通貨の暴落、インフレの急伸、銀行危機を招くことになり、自国経済に明らかな負担がのしかかる。これを避けるには財政政策を共同管理する何らかの政治同盟を結ぶことが必要だ。しかし、通貨同盟の設計者たちは、財政同盟や政治同盟を整えないままユーロを導入した。

欧州のエリート層が繁栄を後押しするつもりで創設したユーロが、欧州経済の不振を招いた挙げ句の果てに、今ではデフレを避けるための効果的な行動を取る妨げになっているのだ。

ユーロの失敗から学ぶ政治的教訓
Phil King/iStock/Thinkstock

ユーロ圏の国々は岐路に立っている。ユーロを機能させるためには、彼らは財政・政治同盟に向かわなければならない。とはいえそれは簡単な仕事ではない。

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要約公開日 2016.12.01
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