アフリカの貧困や紛争の原因については、数多くの説が唱えられている。しかしアフリカにある貴重な天然資源こそが、アフリカにとって厄災となっているのは疑いようもない。実際、マッキンゼー・アンド・カンパニーの分析によれば、貧困に苦しむ人々の69%は、石油や天然ガス、鉱物資源が豊富な国で暮らしているという。
エコノミストたちはこの現象を「資源の呪い」と読んでいる。もちろん、これだけで紛争や飢餓が蔓延する理由を説明することはできないが、資源産業が経済を支配している国のほうが、好ましくない状態に陥りやすいのは事実だ。政府が天然資源から得る収入は、いわば不労所得である。この種の収入は「資源レント」と呼ばれ、国家を支配する人々が勝手に使える資金を大量に生み出すだけでなく、場合によっては統治者と国民との社会契約すら破綻させてしまう。国民に課税して政府の資金を集める必要がなくなるため、国民の同意を取りつける必要すらなくなるからだ。
天然資源で利益を上げている政府は、政府の利益になることに国の収入を費やす。そのため、教育支出は減り、軍事予算がふくらむ。また、資源産業には汚職がつきものであり、権力者たちはその座を手放そうとはしなくなる。その結果、独裁政治が生まれる。その証拠に、大統領在職期間が長い人物の上位4名はいずれも石油や鉱物資源に恵まれたアフリカの国の支配者だ。
さらに、ヨーロッパ列強による植民地支配が終わり、アフリカ諸国が独立を勝ち取った今でも、資源産業を牛耳(ぎゅうじ)る巨大産業がアフリカから離れることはない。こうした多国籍企業とアフリカの支配者層は、仲介人を通すことでネットワークを形成し、自分たちの富を増やすことだけに注力しているのである。
ナイジェリアはアフリカ最大級の人口を有しており、実にアフリカ人の6人に1人がナイジェリア人にあたる。そのナイジェリアの崩壊が始まったのは、イギリスから独立する4年前の1956年、石油が発見されてからのことだった。
新たに発見された油田の3分の2は、分離独立派が自分たちの土地だと主張する地域内にあった。分離独立派が1967年にビアフラ共和国の樹立を宣言すると、権力争いを繰り返していた民族グループの対立が先鋭化し、ナイジェリアは内戦に突入。結果、50万人から200万人の国民が命を落とした。その主な死因は飢餓であった。
最終的に分裂の危機は免れたナイジェリアだが、その後も悪辣な独裁者が相次いだ。そして政府収入の5分の4を石油が占めるようになると、資源レントの分前を獲得するための熾烈な争いが日々繰り広げられるようになった。
こうした状況が、ナイジェリアの生産力に大きな悪影響をおよぼしている。エネルギー産業以外の産業部門が衰えてしまうことを、『エコノミスト』誌は1977年、「オランダ病」と名づけた。この病気は、貨幣を通じて国に忍び込んでくる。輸出された資源にドルが支払われることで、自国通貨の価値が上がる。すると、国内製品に比べて輸入品のほうが安くなり、自国の企業が弱くなる。輸入品が国内製品に置き換わり、最終的には地元の農民は耕作地を放棄するというわけだ。それでも天然資源を加工すれば、その価値を何倍にもできるかもしれないが、工業力のないアフリカでは、原油や石油はそのままの形で流出してしまう。
ナイジェリアだけでなく、アフリカ諸国はこの慢性的なオランダ病に苦しめられている。アフリカ経済全体の生産高に占める製造業の割合は、1990年には15%だったが、2008年には11%に下がった。そして2011年の世界全体の製造業の生産高に占めるアフリカの割合は1%程度で、この数値は2000年からまったく変わっていない。
資源に頼りきって歪んだ経済は、専制的な政権とその協力者が栄える土壌を生む。そのネットワークの特徴は、国、宗教、商品によって異なるが、共通する部分もある。(1)公益と個人的利益があいまいになっており、(2)グローバル化の暗部を利用して取引が行われている。そして、(3)石油産業や鉱業の力に依存した、ごく限定された経済を生み出す。
こうしたネットワークには、数十年前、あるいはアフリカ独立以前にさかのぼるものもあるが、最近形成されたネットワークもある。その代表的なものが中国との関係だ。
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