日本のほとんどの地域において、人口減少に歯止めがかからない。2040年までに896の自治体が消滅する恐れがあるというレポートも発表されている。国を挙げて「地方創生」に挑んでいるが、その効果は出ているのか。
大前氏によると、地方創生の本来の目的を達成した取り組みは、おそらく一つもないという。もちろん、ご当地ブームや一村一品運動、ソーシャル・コミュニティビジネスといった取り組みは各地で実施されている。しかし、その効果は、街づくりや地域のイメージアップなど、きわめて限定的であり、その地域のGDP増加につながったものはないといってよい。
また、「ふるさと創生」や「リゾート法」といった国家主導のプロジェクトが行われたものの、集客できないテーマパークや赤字の第三セクターが増えただけで、成功事例が生まれていないのが現状だ。
世界の地方創生の事例に目を向けると、様々なタイプがあることがわかる。例えば、シリコンバレーや、合弁企業が1000社以上集っている北京の中関村など、地域でイノベーションを創出する「シリコンバレー型」、海外企業を誘致し、バックオフィス業務を現地の人が担う「企業誘致、BPO型」、地元の食材を活かした「農産物、食型」などが挙げられる。マイクロソフトやアマゾン、イケアなど、1人の起業家が地元で起業し、世界化を果たす「1人の起業家型」も多い。
一方で、なぜ日本の地方創生はうまくいかないのか。その根本には、「地方自治」について書かれた憲法8章の問題が横たわっている。この8章には「地方公共団体」と明記されているだけで、「地方自治体」という言葉も、都道府県の明確な定義も登場しない。つまり、司法・立法・行政の三権を持つのは中央政府だけというわけだ。そのため、都道府県や市町村に、どのような権限を付与すればいいのかが不明確になっている。
本来、地方経済を活性化させるには、その地域に独自の財源と、司法・立法・行政の三権を与えて、地域の自由度を高めることが欠かせない。日本はコミュニティ、産業単位としての行政区分を定義し、権限を委譲する必要がある。行政単位を大きい順に道州、地域・広域連合(県)、自治体(市町村)、コミュニティ(自治体、商店街)」と4つに分類するとしたら、「市町村レベル」で、地域独自の強みを明らかにし、それを活かして世界展開をめざすことが望ましい。
また、地方創生モデルには、地産地消を基本とする「江戸時代の自給自足経済」モデル、連邦制や道州制のように各州が非常に大きな権限を持つ「米国モデル」、そして、小さい町の大半が自前の産業を持ち、グローバル展開することで経済的な自立を図る「イタリアモデル」の3つがある。中でも日本に最適なのは、「イタリアモデル」だ。国や政府に頼らず、地方の各都市がエンジンとなって国を動かしていくことが、一番現実的な選択肢だといえる。
現在、生産額、輸出額ともにイタリアと日本の地方産業では大きな開きがある。イタリアのコモの絹は生産額が約3000億円、輸出額が約1800億円だという。また、1000億円規模ばかりではないものの、イタリアには自前の産業を持つ町が1500も存在する。さらには、顧客ターゲットを「ハイエンド」「アッパーミドル」にすることで、高値を保持し、利幅を確保している。
これに対し、日本の地方には多くの伝統工芸品があるものの、経済規模が100億円を超える町はほとんど存在していない。おまけに、「ロウワーミドル」「ボリューム」ゾーンのセグメントを狙うため、新興国との価格競争により安値で買いたたかれ、利幅をとれなくなっているのが現状だ。
もちろん、イタリアの中小企業も、中国やEU内の低コスト製品との価格競争にさらされていたが、それをクラスター化によって乗り越えてきた。例えば、トスカーナでは
3,400冊以上の要約が楽しめる