世にいう「頭のよさ」には3種類ある。1つ目は記憶力に裏付けられた豊富な知識を持つ「物知り」タイプである。2つ目は対人感性が高く、人の気持ちをすぐに察知できるという、「機転が利く」タイプだ。そして3つ目は、数学者やプロ棋士のように思考能力が高いタイプであり、これを「地頭力が高い人」と著者は位置づける。
地頭力は、あらゆる思考のベースとなる知的能力だ。「問題を解決しよう」という知的好奇心を基盤とし、筋道を立てて物事を考える「論理思考力」と、ひらめきを伴う「直観力」を要する。これらをベースとしたうえで、「結論から考える」仮説思考力、「全体から考える」フレームワーク思考力、「単純に考える」抽象化思考力の3つから構成されるのが地頭力だ。
結論から、全体から、そして単純に考えることによって、圧倒的に生産性を上げ、コミュニケーション上の誤解を最小限にできる。さらには、少ない知識を応用して新しいアイデアを生み出しやすくなるという効果も期待できる。
現在は、誰でも膨大な情報にふれられ、情報の陳腐化が今まで以上に激しくなり、過去の経験が未来の成功に役立つとは限らない時代である。そのため、断片的な知識を豊富に有していることの重要性は相対的に低くなっている。一方、先述した効果をもたらし、未知の領域で問題解決を図る能力という点で、地頭力はますます重要度を増すといえよう。
インターネット黎明期には、情報リテラシーや技術インフラ所有の有無による二極化、デジタルデバイドが問題とされた。しかし今では、インターネットの膨大な情報や知識を活用して、考える力で増幅させる人と、情報に溺れる人の二極化が生じていく。これを著者はジアタマデバイドと名付ける。
ジアタマデバイドの時代に必要なのは、知識や経験をもとに、常に環境に適応しながら次々と新しい知識を生み出せる人、地頭型多能人(バーサタイリスト)である。
地頭力は日々の訓練によって鍛えられる。地頭力を鍛えるための強力なツールが「フェルミ推定」だ。フェルミ推定とは、「東京都内に信号機は何基あるか?」といった、とらえどころのない数量を、論理的に短時間で概算する方法を指す。物理量の推定に長けていたノーベル賞物理学者、エンリコ・フェルミにちなんで、このように命名された。
フェルミ推定が活用されている場面として有名なのが、コンサルティング会社や外資系企業の面接試験である。フェルミ推定では、明快かつ正解がない質問を問うことで、解答者の思考プロセスを純粋に評価することができるため、地頭力を試すのにうってつけだからだ。
ここでフェルミ推定の例題として、「日本全国に電柱は何本あるか?」という問いの解法を見ていこう。大事なのは、結果が正確であるかよりもどんな思考プロセスを経たのかという点だ。
まずは、アプローチ設定である。ここでは「単位面積当たりの本数を市街地と郊外(市街地以外)に分けて総本数を算出する」といった切り口を考える。次に対象をモデル化して、単純な要素に分解する。各エリアの「単位面積当たりの本数」と、それぞれの「総面積」を導き、掛け算すれば総本数が算出できる。ポイントは、こうしたうまい切り口を見つけて、推測可能となる適切な粒度に因数分解できるかどうかだ。
つづいて、数値の計算を行っていく。「単位面積当たりの本数」については、市街地の電柱の本数を市街地で「50m四方に1本」、郊外で「200m四方に1本」と仮定する。一方、「総面積」の算出については、新幹線の速度と所要時間から、日本全土の面積の近似値を出す。
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