「〆切」という言葉はネガティブなイメージが強い。その言葉を聞いただけで、早くやらなくてはいけないことを思い出し、追い詰められたような気分になるかもしれない。
しかし、〆切はけっしてネガティブなものではない。心理学において「〆切効果」という言葉があるように、〆切直前になると普段より集中力が増してくる。最後に頑張って間に合わせることができたという経験は、まさに〆切効果によるものであろう。
要するに、〆切があることによって最大限の能力が発揮されるのである。「〆切のおかげで良いアイデアが出てくる」と話す小説家や漫画家もいるぐらいだ。したがって、〆切のない依頼は、いつまで経っても何も生み出せない可能性が高い。
〆切があるからこそ仕事にリズムを生み出せる。逆に、〆切のない仕事には手をつけられない。
著者はコピーライティングをしていた会社員時代に厳しい〆切を守りながら大量の仕事をこなし、仕事の効率を高めていった。現在は本を月に1冊書いているが、最初は1冊につき2~3カ月の時間がかかっていた。しかし、もっと効率的にできないかと考え、試行錯誤を繰り返した結果、月に1冊書き上げられるようになった。
まさしく〆切に鍛えられた経験が活きたといえる。このように、捉え方次第で〆切はポジティブなものに変えられる。
〆切に追われているような気がして不安になるのは、何から取りかかればいいのかを具体的に決めていないからである。ぼんやりしているうちに時間がなくなり、しまいには「なんとかなるさ」と開き直る。しかし、やることが決まっていなければ、その開き直りに根拠はなく、さらなるストレスを生み出すだけだ。
こうした状況を防ぐには、やるべきことを洗い出す必要がある。次に、それらを細分化してそれぞれの〆切を決める。誰かが設定した〆切に追われるのではなく、自ら設定した〆切を追うのである。
ここで大事なのは、仕事を終えるまでのプロセスと、各工程でかかる時間についての「見積もり」をしっかり行うことである。例えば、取材の仕事であれば、事前準備、取材ノートづくり、構成、執筆、推敲のプロセスについて、それぞれどれくらいの時間を要するのかを考える。そして、書き終える日から逆算してそれぞれの〆切を決める。
〆切が決まったら、「時間割」に割り振る。著者はかつて1時間単位でコマ割りした時間割を作って、大量の仕事をこなしていた。一見すると手間がかかりそうだが、作った後は時間割どおりに仕事を進めればよいので、むしろ仕事が楽になる。
あるいは、各プロセスでやるべきことをリスト化するとよい。人間は短期記憶に弱いため、時間割やTO DOリストがそれを補ってくれるのだ。
時間割を運用するときは、割り振った仕事に早めにどんどん手をつけるとよい。〆切よりかなり余裕を持って終わらせてもかまわない。こうすることで後ろのプロセスに余裕ができ、新しい仕事を受けることもできる。そして、ダラダラやらずに割り当てた時間内でやり切る。できないときは先延ばしにせずその時間で打ち切り、他のコマに移して、次の時間割に進めば、時間割を逸脱せずに済むというわけだ。
最後に、時間割を記録として残しておくとよい。そうすれば、各プロセスにかかった時間を記憶でき、同様の仕事のプロセスを考えるときに時間の見積もりがしやすくなる。
仕事は一気に完成させるのではなく、まずは粗々で仕上げるとよい。原稿を書く仕事であれば、そこから推敲を重ねて完成形にする。一気に完成させようとすると、〆切近くになってからやればよいという発想につながる。すると、時間が迫っていることに不安を覚えながら仕事に取り組まなければならなくなる。粗々でも一通りできていれば安堵感がある。ここから原稿のクオリティを高めていけばよい。
また、苦手な時間帯、得意な時間帯でやることを振り分けるのも有効である。例えば著者は、午前中に取材・打ち合わせやメール対応を行い、最も頭が冴えている午後の遅い時間から夜の時間帯に原稿執筆の仕事を入れているという。
できない仕事は引き受けるべきではない。なぜなら、〆切に間に合わないと、
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