仕事の基本的な進め方すら理解していないにもかかわらず、上司や同僚に失敗の責任を転嫁する部下。コミュニケーションをうまくとれないために職場の雰囲気を乱してしまう部下。自分のやり方へのこだわりが強く、周囲と協調できない部下。
このように不可解な言動をとり、上司や同僚を困惑させてしまう部下は職場にいないだろうか。彼らはアスペルガー症候群など、自閉症スペクトラム(ASD)の特性が強いのかもしれない。ここからはその総称であるASDの人と呼ぶことにする。
ASDの人たちは、こだわりが強く、対人関係や人の気持ちを推し量ること、想像することが苦手である。そのため、なんとか社会に適応しつつも、職場では居心地の悪さを感じ、びくびくしながら暮らしている。一見不可解に見えるASDの人たちの言動にも、それぞれ理由があり、それを説明することが可能である。
ASDの人たちは周囲の無理解に対し、時に強い怒りを覚え、訴訟などの敵対的な攻撃に出たり、突発的に自己破滅的な行動をとったりすることがある。こうした問題が起きる前に、ASDの人たちにどう対応すればいいのかという理解が深まれば、互いのかみ合わなさなどの苦労や葛藤を抱えずにすむのではないだろうか。
現代社会は、ASDの人たちにとって厳しい環境である。かつては、顔見知りの商業圏で仕事が成立していた。そのため仕事の能率が悪く、少々間違いがあっても、失敗を許しあえた。しかし現代社会では、高度な対人スキルを要求される仕事が中心になっており、消費者は商品やサービスに高い水準を求めるようになった。そのため生産者側は少しのミスも許されない。
ASDの人たちの中には、このような社会環境に疲労して自信をなくす人や、うつ状態となる人もいる。また、彼らには知的障害がないため、大学進学、もしくは就職後にアスペルガー症候群だと診断される場合もあることが、問題をさらに複雑にしている。本来なら、神経発達症の特性を持つ人々には、とても優れた面がある。それを最大限引き出すには、周囲の気づきや理解が肝要なのである。
本書ではアスペルガー症候群を、広汎性発達障害、高機能自閉症などと並んで、自閉症スペクトラムの疾患の1つとして位置づけている。自閉症とは診断されていないが、社会性、コミュニケーション、想像力の3点において障害を持つ子どもたちが存在しており、これがアスペルガー症候群という概念を生むこととなった。
スペクトラム(連続体)という言葉どおり、自閉症とアスペルガー症候群はひとつながりのもので、どこかで厳然と区別できるものではない。
ではアスペルガー症候群の特徴とは何か。まずは、抽象的で曖昧な表現が理解しづらいという点が挙げられる。また、全体を見ることが不得意で、細かいところに注目しがちである。
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