ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか

生命科学のテクノロジーによって生まれうる未来
未読
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ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか
出版社
ディスカヴァー・トゥエンティワン

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出版日
2017年09月15日
評点
総合
4.0
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

「人口知能が雇用を奪う」「ゲノム編集はデザイナーベビーの誕生につながる」という見方がある。これは、テクノロジーの加速度的な発展にともなう社会の変化に、理解が追いつけないために生まれる不安だと著者は言う。

この、テクノロジーの進歩と私たちの理解のギャップという問題を考えるにあたって、著者はまさにその最前線で日々を過ごしている。著者が大学院在学中に立ち上げた、ジーンクエストという企業は、ユーザーにゲノム解析サービスを提供する。ユーザーは唾液サンプルをジーンクエストに送ることで、健康上のリスクをデータとして入手できる。最先端の事業と報じられる一方で、同社には、「よくわからない」という声や、遺伝子を調べることへの抵抗感が寄せられたという。

著者は、テクノロジーの「流れ」をつかむことで、未来を想像し、受け入れる準備ができるのではないかと説く。そのことを読者に実践してもらうべく執筆されたのが、本書だ。本書は、生命科学のテクノロジーの来し方を概観し、最新の動向を紹介しながら、未来を描く。その上で、ひとりひとりは、そして社会は、テクノロジーをどう受け止めていくべきかを改めて論考する。

ゲノム解析が現在どのような地点に到達しているのか、ゲノムデータはどのように利用されていくのか。文章は平易でわかりやすく、この分野の知識がなくても読み進められる。ニュースから得る細切れの情報だけでは学べない、最新の生命科学の流れを知り、あなたも未来に備えてはどうだろう。

ライター画像
熊倉沙希子

著者

高橋祥子 (たかはし しょうこ)
1988年生まれ、大阪府出身。2010年京都大学農学部卒業。2013年6月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中に株式会社ジーンクエストを設立。生活習慣病など疾患のリスクや体質の特徴など約300項目におよぶ遺伝子を調べ、病気や形質に関係する遺伝子をチェックできるベンチャービジネスを展開。同社は、第10回日本バイオベンチャー大賞日本ベンチャー学会賞や、10年後に世界を変えるビジョンとテクノロジーを持った企業に贈られる「リアルテックベンチャー・オブ・ザ・イヤー」を受賞している。2015年3月、博士課程修了。ネスレ栄養科学会議論文賞、HMTメタボロミクス先導研究助成奨励賞、東京大学大学院農学生命科学研究科長賞受賞、第2回日本ベンチャー大賞経済産業大臣賞(女性起業家賞)など、今注目の研究者&起業家。

本書の要点

  • 要点
    1
    生命に共通する法則性を解き明かすために必要なのがデータである。大量のデータ収集を基盤とした研究は、研究デザインや研究者の在り方にも影響を及ぼしている。
  • 要点
    2
    ゲノム(遺伝子)以外の生命データ収集は、近年生命科学で注目の分野だ。将来的には生命データは丸ごと統合されて研究されることになるだろう。
  • 要点
    3
    発展を続ける生命科学を有効に社会が受け入れるには、変化の流れをつかみ、過去、現在、未来と見渡しつつ議論することが必要である。

要約

テクノロジーが生物学を変えた

生物学+テクノロジー=生命科学
Wavebreakmedia Ltd/Wavebreak Media/Thinkstock

著者は、自らが専門とする生命科学を、「生命に共通の法則性を解き明かし、それを活用する学問」と考える。

古くからある生物学とちがって、生命科学は20世紀後半になって生まれた、新しい学問だ。1953年にDNAの2重らせんモデルが提唱されたことが、生命科学誕生のきっかけとなった。それまで、遺伝子というものの存在は、認められてはいたものの、それがどんな物質なのかはわかっていなかった。しかし、DNAという「もの」がわかったことで、「遺伝子組み換え」などのテクノロジーが実現されることになった。つまり、個別の事象の観察が主である生物学に、もの作り・応用開発を行うテクノロジーがプラスされた学問が生命科学なのである。

そして、テクノロジーは「常に進歩する」。このことを理解するための好例が、「ヒトゲノム計画」である。ヒトゲノム計画とは、1990~2003年に実施された、ヒトのゲノムの全塩基配列(全ゲノム)を明らかにする世界規模のプロジェクトである。13年、30億ドルとたいへんな時間と費用が投じられた計画であるが、ここで注目すべきは、「ヒトのゲノムは解析できる」という実績だ。

時間と費用の問題は、テクノロジーの進歩が解決する。そのことを勘定に入れて考えると、自分のゲノムを全て調べ、そのデータを手にするという未来が予測できる。実際に、著者自身ジーンクエストというサービスを提供しており、個人のゲノムの一部を調べている。テクノロジーは進歩する。だからこそ、「テクノロジーが進歩した未来を想定する」ことが必要なのだ。

ゲノム解析はデータ収集から

法則性の解明のために

前述のとおり、生命科学は、「生命に共通の法則性を解き明かし、それを活用する学問」である。法則性を見つける、とは、現象を「再現」し、起こっていないことを「予測」し、望んだ方向へ「変化」させることである。テクノロジーによって法則性を活用すると、たとえば、ゲノムの中の狙った場所を正確に変化させる「ゲノム編集」のようなことも可能になる。

おおもとにある法則性の解明のために必要になるのは、多くの「データ」である。ヒトゲノム計画では「ゲノムだけわかっても何もわからない」ことがわかった。その意味では期待はずれであったが、ヒトゲノム計画は生命科学に大きな流れを生みだした。「生命をデータとして扱う」という流れである。

現在、生命、特にゲノムについていえば、ゲノムワイド関連解析(GWAS、ジーワス)という方法が用いられる。GWASでは、何千、何万という単位の人のゲノムを丸ごと調べ、「スニップ」と呼ばれる、1塩基だけが他の塩基と置き換わっている箇所に注目する。そして、膨大なスニップのデータを専用のプログラムで処理し、特定の病気や性質に関連しそうな遺伝子を浮かび上がらせるのである。著者の企業、ジーンクエストも、この「スニップ」に着目し、ゲノムを解析した上で、病気リスクや体質に関わる情報をユーザーに伝えている。

データ中心の研究へ
ktsimage/iStock/Thinkstock

ゲノムと病気の関係を調べるには、同一人物を長期にわたって追跡調査し、生活習慣の影響や病気になったかどうかを調べなければならない。こうした研究は「コホート研究」といい、調査対象者の協力なしには成立しなかった。が、近年、インターネットの利用によってコホート研究は容易になっている。

さらに、ウェアラブル端末などを利用すれば、研究に必要な大量のデータが、研究者のもとへ簡単に集められるようになるだろう。

このようにしてデータ中心の研究が主流になってくると、

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要約公開日 2017.11.05
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