2015年4月。GEは160億ドル(約1兆9000億円)の特別損失を計上した。この特損は、2008年のリーマンショックによる金融危機と、それに伴う同社中核事業の金融事業撤退によるものだった。金融事業撤退は、20世紀最高のCEOと呼ばれたジャック・ウェルチの進めてきた「脱・製造業」の路線と真逆に進むことを意味した。つまり「製造業回帰」だ。
GEは、ウェルチ時代に買収したテレビ放送・映画事業から撤退し、白物家電事業などを売却した。一方で製造業に関する巨額の買収も進めた。このころ、同社のものづくりは大きな痛みを抱えていた。生産性と売り上げの低迷が著しく、金融危機の影響は金融業だけでなく製造業にまで影響を与えていたのである。
GEがデジタル化を決心した当時、世界中のあらゆる産業が「デジタルディスラプション(デジタル破壊)」による構造変化を始めていた時期だった。GEも、傘下事業のテレビ・映画部門がネットフリックスなどに浸食されるだけでなく、中核事業のインフラや電力などの分野がグーグルに攻められていた。
また、GEにとっての脅威は、IBMによる「スマーター・プラネット」(2008年)構想だった。さまざまな産業機器にとりつけたセンサーデータを、ビックデータにより効率化する新サービスである。GEの提供する産業機器を使って、IBMが顧客から収入を得るという事態が発生しようとしていた。こうした脅威に対抗するため、同社のCEOイメルトが出した結論は、「GEをシリコンバレー化し、製造業をデジタル製造業へ進化させる」ことだった。
GEのデジタル化への取り組みには3つの戦略がある。第一は、自社の製造ラインをデジタル化し、生産性を高めることだ。世界150箇所の製造拠点で、産業機器にセンサーを取り付けて稼働データを収集・分析し、運用におけるムダや問題点を排除することで生産性を高める「インダストリアル・インターネット(II)」などを指す。
第二は、ものづくりからデジタルサービスへの転換である。自社で実施するデジタル製造業を顧客の現場でも行い、サービス料を得るようになっていった。
第三は、デジタル製造業のために開発した技術を、新規顧客に販売することだ。IIを実現するために開発した「Predix」というソフトウェアを、誰でも利用可能なプラットフォームとして公開する。こうしたデジタル収入を2020年までに150億ドルに伸ばすのが、GEの新たな目標となる。
2011年はGEがデジタル製造業へ転換する第一歩となった。この年はシリコンバレーIT大手から引き抜いたビル・ルーをリーダーに据え、「GEのデジタル事業の診断と戦略立案」に注力する年となった。
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