メガトレンド

世界の終わりと始まり
未読
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世界の終わりと始まり
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出版社
出版日
2017年08月15日
評点
総合
4.3
明瞭性
5.0
革新性
4.0
応用性
4.0
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おすすめポイント

未来予測に関する書籍の上梓が相次いでいる。書店で『20XX年』といったタイトルを目にする機会も増えた。世界各界の賢者や名だたる調査・研究機関が、それぞれの専門知を総動員して未来の社会像を描写している。

ではなぜいま、未来予測なのだろうか。それは多くの人たちが、「先が見えない」と思いはじめたからだろう。大きく急激な質的変化が、いくつも起きつつあるのが現代なのである。

ビッグデータや人工知能(AI)、ロボット技術、再生医療、遺伝子治療といったテクノロジーの進化。そして製造業のサービス業化、シェアリングエコノミーやフラット社会、オープンソサエティーといった社会構造の変化。先進国が成長の踊り場で停滞する一方、多くの新興国が表舞台に台頭し、国際社会はますます複雑化している。

本書は未来予測に関する議論をコンパクトにまとめた一冊だ。まず未来予測のアプローチ法と歴史的経緯が解説され、9つあるメガトレンドの各論が展開されていく。国際社会、産業構造、テクノロジーの向かう先について、ホットな話題がいくつも登場し、じつにスリリングな読みごたえである。メガトレンド全体の俯瞰的な考察も示唆に富んでいる。

各分野のメガトレンドを一度に把握できる、おもしろく便利な良書だ。一読すれば、私たちの社会が置かれた現況と向かおうとする未来について、明瞭な視座を得ることができるだろう。

著者

川口 盛之助 (かわぐち もりのすけ)
慶應義塾大学工学部卒、イリノイ大学修士課程修了。技術とイノベーションの育成に関するエキスパート。技術開発戦略を文化的背景と体系的に紐付けたユニークな方法論を展開する。戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトルにおいて、アソシエート・ディレクターを務めた後に株式会社盛之助を設立。国内のみならずアジアや中東の各国の政府機関からの招聘を受け各種コンサルティングを行う。日経BP社 日経BP総研 未来研究所アドバイザーも務める。著書は『オタクで女の子な国のモノづくり』『世界が絶賛する「メイド・バイ・ジャパン」』『日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)』『メガトレンド2016‐2025全産業編』など多数。
morinosuke.com

本書の要点

  • 要点
    1
    未来に関する情報源は、世間を流通する膨大な「20XX年」言説と、学者知識人が執筆した未来予想本の2種類がある。
  • 要点
    2
    「メガトレンド」とは、将来的に私たちのライフスタイルや価値観に大きな影響を与える社会変化のことを指し、9つに分けられる。
  • 要点
    3
    社会の成熟化が進むことで、家族や性別、友人関係などのロールモデルにも変化が表れ、心の癒やしに関わるビジネスの需要が高まる。
  • 要点
    4
    ライフサイエンスの発達により、私たちのコミュニケーションや人生観、倫理観は大きく変わる。

要約

集合知型の未来年表

未来言説を集めてまとめる
masterzphotois/iStock/Thinkstock

未来について考える際、情報源は大きく2種類に分かれる。1つはメディアで日々大量に配信される、細切れの情報だ。「2045年にシンギュラリティー(人工知能が人間を超えること)へ到達する」といった「20XX年問題」言説や、「2027年にリニア中央新幹線が開通する」といった予定計画、はてはハルマゲドン予言の類まで、玉石混交しているのが特徴である。

著者は世間に流通するこうした20XX年言説をできるかぎりたくさん集め、もっとも辻褄の合うように1つのストーリーに集約するという作業を、1万5000件に及ぶ情報にもとづいて行なった。これを紹介したのが本書第1章である。

情報の取捨選択は3つの大分類にもとづく。「テクノロジーの変化」「資源や環境問題の変化」および「マクロ的な動態・政治・経済の変化」である。このなかでもテクノロジーの変化は、「移動体系技術」「電子・情報系技術」「生産技術」「医療・バイオ系技術」の中分類に分けられている。また時系列は2025年、2035年、2045年までの10年刻み3期に分けられ、各期間に起こるとされる変化がまとめられている。

テクノロジーの変化:移動体系技術

この未来年表の一例として、「テクノロジーの変化:移動体系技術」を紹介しよう。

2016~2025年期のロボット分野では、搬送用や掃除用など用途限定型の開発が中心で、その駆動形態は車輪式や多脚方式である。2足歩行の汎用ロボットはこの時期だとまだ商用化しない。

また、パワードスーツや手術用など、アシスト型のロボット分野が大きく花開くのもこの時期だ。自律制御領域のロボット開発もドローンや自動車分野で進展するが、自動車分野では高速道路などシーンが限定される。電気自動車(EV)は電池性能が足かせとなり、用途は都市交通などに限られるだろう。一方で2輪や3輪といった単距離移動用では、電動化が大きく進むはずだ。

2026~2035年期になると、自律型の警官や介護といったサービスロボットが日常生活に入りこむ。ドローンや自律走行車は、日常生活で頻繁に目にするようになるだろう。航空輸送市場では格安航空会社(LCC)の便数増加により、パイロット不足問題が深刻になる。そのため貨物機などから無人操縦化が試行される。成層圏を飛ぶ超高速航空機も実運用に入り、民間の宇宙ビジネスが注目を集める。

2036~2045年期はロボットの洗練度がさらに高まり、私たちの肉体労働のうち、かなりの部分で省人化が進む。その結果、3K職場から人の姿が消えはじめる。自動車の電動化と自律走行化は完全に普及期に入り、新車の過半数はこのタイプに移行する。宇宙では月に人が常駐する基地が設営され、そこから火星に向けて有人宇宙船が往復するようになる。

世界の賢人たちが描く未来予想図

未来予想図にはそれぞれの立場があらわれている
bowie15/iStock/Thinkstock

未来について考える情報源の2つ目は、権威ある学者や研究機関による未来予測だ。著者はその種の未来予測100冊あまりを読みこみ、各分野の将来的な社会課題や対応策についての傾向を把握した。

これらの未来予測は、各領域の豊富な専門知識に基づいた、緻密な未来像を提示してくれる。ただし専門外の領域に関しては、トンチンカンな言説も見られるので注意しなければならない。加えて各国各地域を代表する賢者だけに、過去の栄光への自負や衰退への焦燥感、こうあってほしいという願望など、「情念」が色濃く出てくるということもある。賢者といえども人の子であり、それぞれの願望がある。さらに、読者の聞きたいストーリーが展開されているという面も勘案しなければならない。

賢者たちの出自背景から生まれる情念に注目し、「お国柄」という点で特徴が際立つ6冊を選出して比較を行なったのが、本書第2章である。

西洋人の立場から

ノルウェーの環境学者ヨルゲン・ランダースの『2052』は、ローマ・クラブ『成長の限界』の続編といった位置づけの書物で、気候問題をメインテーマとし、悲観的な未来像を提示する。とくに米国的な資本主義、物質主義にはかなり批判的だ。

これと対照的なのが、英エコノミスト誌編集部による『2050年の世界』である。こちらでは気候変動の影響は想定されたレベルより小さく、不安に煽らされず冷静になれと説かれている。人口増加ペースも減速するので飢饉も減り、紛争による死者も減ることから、世界はむしろ安定化しているというのがその主張だ。たしかに説得力はあるが、世界秩序の管理者だった英国人の弁明に聞こえないこともない。

現在、世界の政治経済を主宰する立場にある米国からは、ジョージ・フリードマン『100年予測』を取りあげている。地政学的な観点から、21世紀も北米の時代は続くと主張する一冊である。「粗野なまでの若さ」を本質にもつからこそ、米国の覇権は終わらないというのがフリードマンの見方だ。

一方でフランスの知識人ジャック・アタリの『21世紀の歴史』には、英米に劣後し主役になり損ねたフランスの悲哀がにじんでいる。

アジアの新興国、そして日本の立場から
SeanPavonePhoto/iStock/Thinkstock

アジア新興国の立場からは、キショール・マブバニの『大収斂』が取りあげられている。シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院院長を務めるマブバニは、「世界の中心が非西洋へとシフトしつつあることを西洋人は認めなくてはならない」と説く。そして自らの既得権を守ることに汲々とし、新興国の台頭を阻止しようともがく西洋諸国の姿勢を批判する。彼によれば、英米の時代から印中の時代に移ることは必然なのだという。

日本からは三菱総合研究所『全予測 2030年のニッポン』が選ばれている。この本の特徴は、工学系の技術論に相当の比重が置かれていることだ。科学技術によって発展してきた日本の成功体験が、色濃く反映された結果だろう。しかし技術開発さえ怠らなければ発展できた時代は終わった。新しい価値を実現するためには、人文社会科学も含めた広範な学知を運用しなくてはならない時代になったいま、こうした論法が妥当なのか、はなはだ疑問だ。

メガトレンド概説

9つの「メガトレンド」と50の「市場テーマ」

「メガトレンド」とは、将来的に私たちのライフスタイルや価値観に大きな影響を与える社会変化のことを指す。重要なのは、その変化によって生じる課題とその対応策がどのようなものになるか、具体的に考えていくことだ。

対応策を提供するのは、民間企業の場合もあれば行政の場合もあるだろうし、宗教法人やNPOといった場合もあるだろう。事業主体や財源が何であれ、問題は対価を支払うに見合った魅力的な対応策であるかどうかだ。魅力が大きいほど資金が投入されやすく、付加価値が生み出される確率は高まる。

第1章と第2章で取りあげたように、著者はさまざまな20XX年言説を収集し、未来予測に関する文献やリポートを読みこんだ。そしてさまざまな社会課題と対応策、予想される新技術とその負の側面などを洗いだした。

その結果、最終的に抽出されたのが、9つのメガトレンドである。本書第3章では、この9つのメガトレンドの概要が説明され、それに付随して発生する事業機会を50の「市場テーマ」として提示している。

【必読ポイント!】 メガトレンド各論

第1メガトレンド「先進国の本格的老衰」

本書第4章では、メガトレンドの各論が展開される。そのなかから要約では、人間の身体にかかわるものを紹介したい。それは第1メガトレンド「先進国の本格的老衰」と、第9のメガトレンド「超人化する人類:生態と進化の人工操作への挑戦」だ。

まず「先進国の本格的老衰」について説明する。戦後ベビーブーマー世代の高齢化が進み、少子高齢化に苦しむのは先進国共通の難題である。とくに日本は他の先進諸国より急速に進行しており、問題の先頭を走る課題先進国となることは確実だ。消費行動全般がシニア向けにシフトしていくなか、シニアならではのサービス消費が期待される一方で、高齢者の生産性を高めるための生涯教育も重要になる。

加えて産業構造も成熟化が進み、サービス産業化や高付加価値農業など、脱工業化が進展していく。社会の成熟化が進むことで、家族や性別、友人関係などのロールモデルにも変化があらわれるだろう。必然として心の癒やしに関わるビジネスの需要も高まる。

第9メガトレンド「超人化する人類」
chombosan/iStock/Thinkstock

身体に関わるもうひとつのトレンドが、「超人化する人類」である。この議論の中心は、人間の根源的な欲求である「健康長寿」と「能力強化」に関わる技術革新、およびその影響である。

関連する技術を大きく分けると、機械工学と情報工学、そしてバイオ工学の3つだ。機械工学は、人間の筋肉の仕事をアシストしたり代替したりする。情報工学は、知覚系の仕事や脳・神経の機能、コミュニケーションのタスクを、補完したり強化したりする。そしてバイオ工学は、遺伝子の人工的な改変や再生医療により、長く若く美しく生きることを可能にしようとする。

たとえば脳信号を読み取って動作に翻訳するBMI型パワードスーツなら、歩く動作を頭に思いうかべるだけで、着用した外骨格スーツが作動し、脊髄に損傷を受けた人でも歩けるようになる。また2006年の論文発表から10年経ったiPS細胞は、すでに人間の網膜や心筋シートの再生ができるところまで到達した。

これらの技術は補完し合いながら、際限なく健康長寿と超人化を進めていくだろう。ただし話題先行の部分もあり、期待が裏切られることも考慮すべきである。

ライフサイエンスの発達と価値観の変化

こうした技術革新は、価値観や文化も大きく変えるはずだ。脳間通信によるテレパシー的コミュニケーションの実現、脳内ホルモン制御による感覚の操作、臓器交換による寿命延伸――これらが実現すれば、コミュニケーションスタイルや人生観、倫理観は大きく揺らぐことになる。

機能強化という面では、飛躍的な筋力アップや暗視スコープのような視力をもつことに対して、倫理上の問題から大きな議論が起きるだろう。だがこうした流れを止めることはおそらくできない。米国防高等研究計画局(DARPA)では、超望遠の目や犬並みの聴覚・嗅覚を獲得できる技術、脳内にチップを埋め込んで怖気づかないようにする技術など、議論を呼びそうなプロジェクトがいくつも進められているという。

自分を再構築できるようになれば、子孫繁栄に対する興味は薄れる。そうなれば少子高齢化の流れはますます加速する。健康な老人の割合が増え、社会的成功者ほどさらに生を長らえるようになると、未来への投資に対する動機付けも薄れていく。成功者にとって現状維持こそが最適な未来だからだ。

さらに貧富の格差問題も深刻になりそうだ。高度医療の恩恵にあずかれるのは、経済的に余裕のある人たちだからである。

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要約公開日 2018.02.14
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