ファンダムとは、ファンの熱狂的な「行動」を表す言葉である。ファン行動は昔からあったが、この100年の、輸送技術の進歩やインターネットの発展などが、ファン行動を引き起こすような特定の人やモノ=「ファンオブジェクト」へのアクセスを容易にした。時間とエネルギーを持て余したファンたちは、オブジェクトへの愛の表現にエネルギーを向け始めた。
このようなファン活動の恩恵に預かっているのが現代のマーケティングである。ファンは、あたかも宗教行為のごとく、無形の概念を有形のファンオブジェクトに託したり、重要な場所を「巡礼」したりする。さらには、ファンオブジェクトを通して知人にファンとしての重要な概念を「布教」したり、それについて仲間と語り合ったりする。
ファンダムは「クリティカル・マス+思い入れ+プラットフォーム」という公式で表せる。成功しているファンダムには、ファンオブジェクトに思い入れを持つ人が相当数、存在し、その感情を表現するためのプラットフォームがある。つまり、ファンダムとは、オブジェクトへの情熱を表現し合える場所を見つけた集団による、自発的かつ熱狂的な活動なのだ。
ファンダムの目的は文脈づくりである。文脈とは、ファンオブジェクトをめぐるファンの「思い入れ」のことだ。
ファンオブジェクトは基本的に商売のために作られるが、文脈がなければ、ファンオブジェクトにはなりえない。なぜなら、ファンがファンオブジェクトを購入するかどうかは、それにまつわる文脈の良し悪しに左右されるからである。
現代の購買情報源は、レビューサイト、ソーシャルメディアのコメントなどだ。消費者はこれらの閉じたメディアでつくられたブランドの文脈を見て、どの商品を買うか決めている。このようにしてファンは、文脈づくりに時間、資金、エネルギーを注ぎ込んでいるのである。
ファン行動の拡大を促す要素として、「過去を懐かしむ気持ち」「デジタルなつながり」「匿名性」の3つが挙げられる。
第1は、「過去を懐かしむ気持ち」である。現代は、100年前と比べてモラトリアム期間が長い。家族を持つのが遅くなり、娯楽に使えるお金も増えた。一方で、大学卒業後も自宅に留まる人は増えている。子供時代の生活環境に戻り、過去を懐かしむ気持ちが芽生えやすい。そのため、思い入れのあるものに時間やエネルギーを注ぐようになる。
第2に、「デジタルなつながり」によって、ファンたちはコミュニティの団結と協力の方法を変えた。つながりたいという欲求があれば、誰でも容易にコミュニティに参加できる。その結果、現代のファンは過去と比較して、より熱狂的になった。また、以前は、コミュニティの維持に大規模なファン集会や地区ごとの支部など、ピラミッド型の組織と強い指導力が必要だった。しかし、インターネットのおかげで、強力なトップダウンの命令系統がなくても分散したコミュニティをまとめられるようになり、人員コストも最低限で済むようになった。
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