2008年9月、リーマンブラザーズが破綻した。著者は当時、景気後退が始まっていることは知っていた。しかし、資本主義が自滅しかけていたとは気付かなかった。
リーマンショックの直接の原因は、サブプライム住宅ローンを組み込んだ証券化商品と、規制を免れたオフショア企業のネットワークであり、これらは「影の銀行システム」として知られる。だが、こうした直接的原因の他に、構造的な本質を見定める必要がある。
重要なことは、新自由主義において危機のモデルがないということだ。人々は、「市場は自ら修正する」という考えを信じている。しかし、新自由主義は2008年に、自らの抱える矛盾のなかで崩壊した可能性があったうえに、その可能性は今なお存在する。
リーマンショック後、各国の政府は混乱の収拾、銀行の救済のために、政府債務残高を増やし、公的資金を注入し、緊縮財政政策を実行した。だが、先進諸国において緊縮財政により発生するのは、賃金と生活水準の下落、そして新興国中産階級との競争といった事態である。要するに、次世代は現世代よりも貧しくなるということだ。
そうした状況を横目に、再び金融危機が起こる条件が整ってきている。すでに「影の銀行システム」は再び組み立てられており、その規模は2008年当時を超えつつある。だが、もし新たな金融恐慌が起こったとしても、政府債務残高は戦後最大となる。福祉制度が機能不全に陥った国もある中で、リーマンショック時のような救済策を再び行うことは、まずもって困難だろう。リーマンショックの起きたあの日、著者が感じ取ったのは、「資本主義の将来の不確かさ」だったのである。
資本主義が滅亡するという予感は、はたして合理的なものなのか。これを検証するための四つの要素として、不換紙幣、金融化、グローバル・インバランス、情報技術が挙げられる。当初はこれらの要素のおかげで、新自由主義が繁栄したが、今やその崩壊が始まっている。
まず、不換紙幣とは、金と交換される保証のない紙幣のことである。1971年にニクソン米大統領は、金本位制と固定相場制を廃止した。これにより、米政府は恣意的に通貨を操作できるようになった。その後の30年で、米国は世界各国に6兆ドルの債務を積み上げた。こうして、マネー創造の拡大が起こり、あらゆる危機は解決可能であり、投機は永遠に利益を生み出す、という誤解が広まってしまった。
次に、金融化とは、先進諸国では労働者の所得の停滞を信用が補っているという状況を指す。消費者たちが金融市場に直接関わるようになり、クレジットカード、学生ローン、自動車ローンなどが日常的に利用されるようになった。また、あらゆる支払いが鎖のようにつながって、金融商品に組み合わされ、投資家に利息収入をもたらしている。
つづいて、グローバル・インバランスとは、経常収支の不均衡のことだ。中国、日本、アジア諸国やドイツ、石油輸出国などの貿易黒字の反対側では、米国や英国、南欧が、その資力を超える借金を抱えている。そして、その持続不可能な債務は、米国と英国、欧州の金融システムに負荷をかけ、2008年の金融危機の原因を作った。
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