農業の発明と17世紀の科学革命により、人類はきわめて短期間のうちに革新的な成長を遂げた。そして近代になると、「経済成長」という概念が登場した。
経済成長はどのようにして起こったのか。社会学者ノルベルト・エリアスのいう「文明化の過程」からこの疑問について考えると、現代人が富そのものよりも、富を無限に増加させることに執着しているのが明らかになる。
クロード・レヴィ=ストロースによると、人間とは自分自身を飼い馴らす生き物だという。近親相姦を禁じ、お互いの娘を交換することで部族の平和を保る。このような禁忌と分類をつくり出す能力は、人間の特徴のひとつだ。掟をつくることによって社会的な生活様式が定まり、それが文化の基盤となっていく。
ジョルジュ・バタイユは人間の本質を見抜き、こう述べた。「われわれは、自分たち自身でつくった決まりを不可侵なものとして考える傾向があり、それらの決まりを変えるより、それらを定めた社会が破綻するまで突き進もうとする」と。
紀元前1万年にはじまり、人口増加の起爆剤となった農業は、社会に階層化を起こした。王は王子に、王子は領主に命令を下す。そして領主は騎士を、騎士は小作人を支配する。さらに小作人の下には農民がいる。こうして族長支配体制が確立すると、上層部の人たちは世襲的な権力をもち、民衆が差し出す余剰で生活するようになった。
社会の階層化は男女間にも広がった。農業の伝播とともに狩猟と採集が分業化され、採集の仕事に従事する者は農業へと移行した。そして次第に男性は屋外で、女性は屋内で働くようになり、農村社会における女性の役割は子供を産むことに限定されていった。これは女性の地位が格下げになったことを意味する。
農業文明の発展は、人間の食生活を豊かにした。十分な栄養を摂取できるようになり、人口は増加。人口が増えるに伴い、経済も発展した。だが人口急増によって食糧資源が減少すると、経済危機に陥る。経済史を振り返ってみると、このような経済の発展と危機の繰り返しだったことがわかるだろう。
かつて経済学者トマス・ロバート・マルサスは、耕作可能な土地の開墾スピード以上に人口の増加スピードが速いため、いずれ農業生産量が限界に達して人類は滅びると考えた。
これに対して現代の経済学者エスター・ボズラップは、人口圧が独創力を生み出し、急増する人口の諸問題を解決すると考えた。人間が増えるとアイデアも増え、そのアイデアが食糧の供給能力の限界を押し広げるというのだ。
しかしボズラップの説にもいずれ限界がくると思われた。過去1万年間の人口増加をもとに計算したところ、世界人口は2026年11月13日に無限大になるという計算結果が出たからだ。
予想外だったのは、奇跡的に人口転換が起こり、人口爆発から逃れることができたことである。すなわち多産多死型から多産少死型、そして少産少死型へと移行し、出生率が急激に減少していったのだ。
あらゆる生き物のなかで、人間ほど豪奢に消費する生き物はない。バタイユは次のようにいう。「地球上の暮らしの歴史は、おもに途方もない豊かさの結果だ。お金がますますかかる生活様式の生産、つまり贅沢の発展こそが主要な出来事なのだ」と。
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