経済成長という呪い

欲望と進歩の人類史
未読
経済成長という呪い
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経済成長という呪い
出版社
東洋経済新報社

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出版日
2017年09月07日
評点
総合
3.5
明瞭性
3.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

人間の欲望──これが本書のテーマだ。著者ダニエル・コーエンは、経済成長を「人間の無限の欲望」だと捉えている。

では経済成長が停滞した現代社会において、私たちはこの先、失望とともに生きていかなければいけないのだろうか。無限の経済成長がないのであれば、陰鬱で味気ない人生を受け入れるしかないのだろうか。

19世紀の電気や自動車、20世紀のラジオやテレビ、原子力エネルギーなど、近年は社会を一変させるほどの偉大な発明が相次いだ。それに伴って経済成長率も上昇していった。

一方で21世紀になると、その経済成長率にかげりが見えてきた。たしかにスティーブ・ジョブズが発明したiPhoneが象徴するような、デジタル革命が起きたのはまちがいないだろう。しかしどうやらデジタル革命の成果は、経済成長率に反映されないようだ。現代ほどテクノロジーが急速に発達した時代はないにもかかわらず、経済成長は低迷している。これはまぎれもない事実なのである。

「現代社会は、経済成長なしでも持続できるか」という疑問に対して、コーエンははっきり「ノー」と答えている。経済がふたたび成長することにも期待できないという。ただコーエンの語り口はけっして暗いものではない。実際に本書では、突破口ともいえる提言も示されている。

経済成長を切り口とし、深淵なる人間の欲望と私たちの未来について、じっくり考えてみるのもおもしろい。

ライター画像
金井美穂

著者

ダニエル・コーエン (Daniel Cohen)
1953年、チュニジア生まれ。フランスを代表する経済学者であり思想家。エリート校であるパリ高等師範学校(エコール・ノルマル・シュペリウール)の経済学部長。2006年には、経済学者トマ・ピケティらとパリ経済学校(EEP)を設立。元副学長であり、現在も教授を務めている。専門は国家債務であり、経済政策の実務家としても活躍している。また、『ル・モンド』紙の論説委員である。
著書は多数あり、アメリカをはじめとして世界十数ヵ国で翻訳出版されている。邦訳書には、『迷走する資本主義』(林昌宏訳、新泉社)、『経済と人類の1万年史から、21世紀世界を考える』『経済は、人類を幸せにできるのか?』(ともに林昌宏訳、作品社)がある。

本書の要点

  • 要点
    1
    14世紀のペスト大流行により、大勢の農民の命が奪われた。すると労働需要は高まり賃金は上昇。コストを下げるために機械化が進み、これが産業革命を引き起こした。
  • 要点
    2
    世界中でこれだけデジタル化が進んでいるなか、先進国の経済成長率は下降している。これはデジタル革命の成果が、経済成長率に反映されないということを意味する。
  • 要点
    3
    物質的な経済成長には限界がある。経済成長がもたらした問題を解決するためには、私たちの精神構造が変化しなければならない。そしてそれは可能なのである。

要約

人類史

文明化の過程
Digital Vision./DigitalVision/Thinkstock

農業の発明と17世紀の科学革命により、人類はきわめて短期間のうちに革新的な成長を遂げた。そして近代になると、「経済成長」という概念が登場した。

経済成長はどのようにして起こったのか。社会学者ノルベルト・エリアスのいう「文明化の過程」からこの疑問について考えると、現代人が富そのものよりも、富を無限に増加させることに執着しているのが明らかになる。

クロード・レヴィ=ストロースによると、人間とは自分自身を飼い馴らす生き物だという。近親相姦を禁じ、お互いの娘を交換することで部族の平和を保る。このような禁忌と分類をつくり出す能力は、人間の特徴のひとつだ。掟をつくることによって社会的な生活様式が定まり、それが文化の基盤となっていく。

ジョルジュ・バタイユは人間の本質を見抜き、こう述べた。「われわれは、自分たち自身でつくった決まりを不可侵なものとして考える傾向があり、それらの決まりを変えるより、それらを定めた社会が破綻するまで突き進もうとする」と。

農業の発明と階層社会

紀元前1万年にはじまり、人口増加の起爆剤となった農業は、社会に階層化を起こした。王は王子に、王子は領主に命令を下す。そして領主は騎士を、騎士は小作人を支配する。さらに小作人の下には農民がいる。こうして族長支配体制が確立すると、上層部の人たちは世襲的な権力をもち、民衆が差し出す余剰で生活するようになった。

社会の階層化は男女間にも広がった。農業の伝播とともに狩猟と採集が分業化され、採集の仕事に従事する者は農業へと移行した。そして次第に男性は屋外で、女性は屋内で働くようになり、農村社会における女性の役割は子供を産むことに限定されていった。これは女性の地位が格下げになったことを意味する。

農業文明と人口増加
Wand_Prapan/iStock/Thinkstock

農業文明の発展は、人間の食生活を豊かにした。十分な栄養を摂取できるようになり、人口は増加。人口が増えるに伴い、経済も発展した。だが人口急増によって食糧資源が減少すると、経済危機に陥る。経済史を振り返ってみると、このような経済の発展と危機の繰り返しだったことがわかるだろう。

かつて経済学者トマス・ロバート・マルサスは、耕作可能な土地の開墾スピード以上に人口の増加スピードが速いため、いずれ農業生産量が限界に達して人類は滅びると考えた。

これに対して現代の経済学者エスター・ボズラップは、人口圧が独創力を生み出し、急増する人口の諸問題を解決すると考えた。人間が増えるとアイデアも増え、そのアイデアが食糧の供給能力の限界を押し広げるというのだ。

しかしボズラップの説にもいずれ限界がくると思われた。過去1万年間の人口増加をもとに計算したところ、世界人口は2026年11月13日に無限大になるという計算結果が出たからだ。

予想外だったのは、奇跡的に人口転換が起こり、人口爆発から逃れることができたことである。すなわち多産多死型から多産少死型、そして少産少死型へと移行し、出生率が急激に減少していったのだ。

余剰エネルギーの浪費と経済成長

あらゆる生き物のなかで、人間ほど豪奢に消費する生き物はない。バタイユは次のようにいう。「地球上の暮らしの歴史は、おもに途方もない豊かさの結果だ。お金がますますかかる生活様式の生産、つまり贅沢の発展こそが主要な出来事なのだ」と。

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要約公開日 2018.03.20
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