ふしぎな総合商社

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ふしぎな総合商社
出版社
出版日
2017年09月20日
評点
総合
3.8
明瞭性
4.0
革新性
4.0
応用性
3.5
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おすすめポイント

「総合商社」と耳にすると、「卸売業であり、生産者やメーカーから商品を買い付け、別の会社に卸す際の売買の差額で利益を上げるビジネス」というイメージを抱く人も多いだろう。「五大総合商社」と呼ばれる伊藤忠商事、住友商事、丸紅、三井物産、三菱商事を思い浮かべる人も多いはずだ。また、取扱商品も多岐にわたる。「ラーメンからミサイルまで」という言葉が生まれたのも総合商社の特性を表しているといえる。

ところが、現在の総合商社の仕事内容を、正確に把握している人はどれくらいいるのだろうか。実際には、きちんと理解していない人間のほうが圧倒的多数を占めるのではないだろうか。把握している内容が、一昔前までの仕事だったということも往々にしてある。

本書は、2016年までの30年間、三井物産に勤務し、幅広い案件に携わってきた著者が、現在の総合商社を丁寧に解説したガイドだ。長いあいだ、売上至上主義だった総合商社。なぜ現在は売上ゼロでも評価される営業部があるのか。こうした現状の裏にある意外な真相を、本書はつまびらかにしている。商社のビジネスモデルの大転換といった、実はよく知らないことだらけの総合商社の真実が明らかになっていくのは実に面白い。

特に商社とやりとりのあるビジネスパーソンはもちろん、商社に興味のある就活生、商社の真実を知りたい人にも本書をおすすめしたい。ぜひ総合商社の真実に触れてみてほしい。

ライター画像
田中佐江子

著者

小林 敬幸(こばやし たかゆき)
1962年生まれ。1986年東京大学法学部卒業後、2016年までの30年間、三井物産株式会社に勤務。「お台場の観覧車」、ライフネット生命保険の起業、リクルート社との資本業務提携などを担当。著書に『ビジネスをつくる仕事』(講談社現代新書)、『自分の頭で判断する技術』(角川書店)など。現在、日系大手メーカーに勤務しIoT領域における新規事業を担当。

本書の要点

  • 要点
    1
    1980年代から現在にかけて、商社は売買仲介型から事業投資型へと、ビジネスモデルを大きく変化させた。それに伴い、商社の業績評価の基準は、本社単体の売上高ではなく、連結決算の当期純利益になっている。
  • 要点
    2
    商社が行う事業や投資には、事業投資的側面と、純投資的側面との両方が存在する。
  • 要点
    3
    商人を現代に適応させ、組織化したものが商社である。

要約

【必読ポイント!】 個性豊かな商社の特性

売上ゼロでも優良「営業部」
wutwhanfoto/iStock/Thinkstock

総合商社は、世間一般的に広く知られているものの、その本当の仕事内容を認識している人は意外に少ない。手練れのビジネスパーソンや経済誌の記者ですら、実態を理解していないのが現状である。

商社の大きな特徴のひとつは、多くの社員が営業部所属であるにもかかわらず、売上高がほぼゼロという部署が多数あることだ。しかも、それでもボーナスが出るところが多いという。この理由は、現在の商社の業績評価の基準が、本社単体の売上高ではなく、連結決算の当期純利益(税後利益)にしているためだという。

業績評価の基準が連結当期純利益に変更されたのは、1980年代から現在にかけて、商社のビジネスモデルが大きく変わったからである。商社はモノを売って儲ける売買仲介型から、事業投資型へと大きく変貌を遂げた。

これに伴い、社内における営業部の業績評価も、会社全体の決算説明と同様、連結税後利益重視になり、売上高をまったく見なくなった。しかもこれは、世界中の連結決算で採用されているまっとうな方法だ。とはいえ、商社の場合、連結税後利益だけを見るという基準を、個々の営業部にまで当てはめているのがめずらしいといえる。

出世と左遷の意外な真実

テレビドラマ『半沢直樹』では、子会社への出向を、冷遇された人事として描かれていた。しかし、これは原作者が在籍していた1990年代の大手銀行の感覚といえる。現在の商社では、子会社への出向はキャリアアップであり、ひとつの出世コースだ。商社の稼ぎ頭が、本社ではなく子会社に変わっているからである。

一昔前まで、商社の社長は海外赴任経験が必須だった。それがいまでは、伊藤忠の岡藤正広社長のように、海外赴任未経験のまま社長に就任しているケースもある。

商社の人事の特徴として、タコツボ人事が挙げられる。商社の人事は背番号制と呼ばれる。食料、鉄鋼、機械、財務など約10のグループの背番号が全社員につけられており、基本的にグループ内で人事異動が行われる。

そう耳にすると、入社時に配属されたグループの枠内に限られたイメージをもつかもしれないが、決してそうではない。自分が属する背番号の部署以外の仕事をすることも多い。とりわけ数人規模の海外拠点に転勤した際、自分の背番号以外の業務も担当する。

このほか、数年の任期で、企画、戦略、業務といった全社的管理部門に社内出向することもある。また、希望部署に異動して背番号を変える社内公募や、フリーエージェント制度を導入する商社も存在する。このように、タコツボとはほど遠い横断的人事が増えている。

コア機能の変化

昨今、社会は工業・製造業を重視した近代社会から、サービス化、情報化により、激しい変化と競争を繰り返す成熟社会へと歩みを進めている。こうした社会変化の影響をもっとも受けたのが商社だ。高度成長期に商社が誇ったコア機能である、資源の輸入や工業製品の輸出、先進事業の導入は、グローバル化で通用しなくなった。

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要約公開日 2018.03.22
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