総合商社は、世間一般的に広く知られているものの、その本当の仕事内容を認識している人は意外に少ない。手練れのビジネスパーソンや経済誌の記者ですら、実態を理解していないのが現状である。
商社の大きな特徴のひとつは、多くの社員が営業部所属であるにもかかわらず、売上高がほぼゼロという部署が多数あることだ。しかも、それでもボーナスが出るところが多いという。この理由は、現在の商社の業績評価の基準が、本社単体の売上高ではなく、連結決算の当期純利益(税後利益)にしているためだという。
業績評価の基準が連結当期純利益に変更されたのは、1980年代から現在にかけて、商社のビジネスモデルが大きく変わったからである。商社はモノを売って儲ける売買仲介型から、事業投資型へと大きく変貌を遂げた。
これに伴い、社内における営業部の業績評価も、会社全体の決算説明と同様、連結税後利益重視になり、売上高をまったく見なくなった。しかもこれは、世界中の連結決算で採用されているまっとうな方法だ。とはいえ、商社の場合、連結税後利益だけを見るという基準を、個々の営業部にまで当てはめているのがめずらしいといえる。
テレビドラマ『半沢直樹』では、子会社への出向を、冷遇された人事として描かれていた。しかし、これは原作者が在籍していた1990年代の大手銀行の感覚といえる。現在の商社では、子会社への出向はキャリアアップであり、ひとつの出世コースだ。商社の稼ぎ頭が、本社ではなく子会社に変わっているからである。
一昔前まで、商社の社長は海外赴任経験が必須だった。それがいまでは、伊藤忠の岡藤正広社長のように、海外赴任未経験のまま社長に就任しているケースもある。
商社の人事の特徴として、タコツボ人事が挙げられる。商社の人事は背番号制と呼ばれる。食料、鉄鋼、機械、財務など約10のグループの背番号が全社員につけられており、基本的にグループ内で人事異動が行われる。
そう耳にすると、入社時に配属されたグループの枠内に限られたイメージをもつかもしれないが、決してそうではない。自分が属する背番号の部署以外の仕事をすることも多い。とりわけ数人規模の海外拠点に転勤した際、自分の背番号以外の業務も担当する。
このほか、数年の任期で、企画、戦略、業務といった全社的管理部門に社内出向することもある。また、希望部署に異動して背番号を変える社内公募や、フリーエージェント制度を導入する商社も存在する。このように、タコツボとはほど遠い横断的人事が増えている。
昨今、社会は工業・製造業を重視した近代社会から、サービス化、情報化により、激しい変化と競争を繰り返す成熟社会へと歩みを進めている。こうした社会変化の影響をもっとも受けたのが商社だ。高度成長期に商社が誇ったコア機能である、資源の輸入や工業製品の輸出、先進事業の導入は、グローバル化で通用しなくなった。
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