「働き方改革」が注目を集めているが、それは各個人が働き方を変えるだけで実現するのだろうか。
まず押さえておきたいのは、働き方改革を、単なる時短や残業代削減、業務効率化、生産性向上、テレワークやAIのIT投資として捉えてはならないということだ。これらはあくまでもツールであり、プロセスに過ぎない。見せかけの改革ではなく、経営戦略としての働き方改革に取り組まない限り、成功とは程遠い結果になってしまうだろう。
例えば、いくらノー残業デーやパソコンの強制終了などを実行しても、サービス残業や持ち帰り残業が増加するだけになってしまったり、若手だけが帰って管理職がオーバーワークになってしまったりということになる。
法改正により「罰則付き時間外労働の上限規制」が導入され、繁忙期の場合でも労使の合意なしに認められる残業は月100時間未満となった。これにより、遵法意識が低かった企業も変わらざるを得なくなった。また、こうしたことに企業が対応していくためには、ビジネスモデルから変革していかねばならない。つまり、「働き方改革」は、福利厚生や時短、生産性向上の問題ではなく、経営改革との意識を持つ必要があるのだ。
「二十四時間稼働できて、いつでも転勤可能」な「無制限正社員」だった日本人の働き方は、大きな転換点にさしかかっている。次の3つは、その背景となったここ数年の出来事だ。
1.資生堂ショック
2.電通ショック
3.ヤマト運輸ショック
1つ目の資生堂ショックは、女性の両立支援に積極的な資生堂が、これまで土日や遅番を免除されていたワーキングマザーに、個人の事情が許す限り出勤するよう要請したことだ。「女性に優しいだけ」の両立支援の限界や、女性だけが育児を担うワンオペ育児の限界を社会に突きつけ、妻の稼ぎを維持したいなら夫も育児参加すべきという暗黙のメッセージを送った。
電通ショックは、電通の新入社員だった高橋まつりさんが2015年のクリスマスに投身自殺をしたことに端を発する。100時間超の長時間労働や、パワハラ、セクハラが記録から判明し、「命より大事な仕事はない」という高橋さんの母親の訴えや、日本の労働基準法が残業時間無制限の青天井であることも注目を集めた。
3つ目はヤマト運輸ショックだ。長時間労働に対する社会意識の変化と、現場の人手不足が露呈し、同社は経営戦略の転換をせざるを得なくなった。働き方改革が経営改革であることを指し示す事例といえる。
経営戦略として、本気で働き方改革をするには、具体的にはどうしたらいいのだろうか。
「△時消灯」「◯時パソコンの強制ログオフ」を単に取り入れるだけでは効果が薄いが、アクションを最初に決めることは必要である。大切なことは、その上で、評価や報酬などの改革、IT投資などで、良い循環が起きることを「見える化」して支えることだ。トップが諦めずに改革の旗を振り続けることで、およそ1年半から2年も経つと社員の多数にマインドセットが起き、企業のDNAが変わるのだ。
働き方改革を担うのは経営者であり、個人であるが、改革の成否がかかっているともいえるのは上司の行動である。働き方改革は「マネジメント改革」とも言われる。業務の効率化に必要なチームの取り組みを導いていくのが、上司だからである。一方でこの層は、長時間労働で成功した体験を持っているので、改革のブレーキになってしまうこともある。部下が上司を評価する項目に、改革で謳われていることを入れたり、「イクボス」を表彰したりする仕組みが有効である。
働き方とセットになるのが「生産性」だが、
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